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(24)泌尿器がんの治療 岡山大泌尿器科 那須保友教授

内視鏡手術支援ロボット「ダ・ビンチ」を手にする那須保友教授

那須保友泌尿器科教授

 ―2010年からがん手術に導入している内視鏡の手術支援ロボット「ダ・ビンチ」の実績と、患者のメリットを教えてください。

 那須 前立腺がんの全摘出が472例、腎がんの部分切除が21例、腎盂(う)形成術が10例です。「ダ・ビンチ」は手術部位を自在に見ることができ、微細な作業ができるため、従来の手術に比べ、合併症のリスクが大きく軽減されました。出血量も少なく、基本的に輸血は必要ありません。

 ―従来の開腹や腹腔(ふくくう)鏡、「ダ・ビンチ」について術式の選択基準はあるのでしょうか。

 那須 前立腺がんでいえば、当院は手術が可能な症例は全て「ダ・ビンチ」で行っており、腹腔鏡や開腹手術は今やゼロです。前立腺の全摘に加え、腎臓の部分切除がこの4月から保険適用となったので、ますます症例が増えるでしょう。岡山県内で「ダ・ビンチ」を導入している医療機関は現在、岡山大病院を含め3施設しかありませんが、患者のメリットが大きいため、これから徐々に広がっていくでしょう。

 ―昨年12月には、尿管狭窄(きょうさく)症のある尿管を切除し腎臓を別の場所に移植する自家腎移植を「ダ・ビンチ」で国内で初めて成功させました。

 那須 尿管狭窄症の場合、管がふさがらないように体内に挿入しているチューブを3カ月おきに交換しなければなりません。現在、同様の病気を抱えており、自家腎移植を検討している人が数人います。「ダ・ビンチ」で手術ができれば、患者さんのQOL(生活の質)は格段に向上します。

 ―「密封小線源」を使った放射線治療の実績も高いですね。

 那須 2004年にスタートし、これまでに約600例の症例があります。「ヨウ素125」を密封したチタン製カプセル(直径1ミリ、長さ5ミリ)を前立腺内に50~100個ほど挿入。カプセルから約半年間にわたり放射線が放出され、がんを死滅させます。「ダ・ビンチ」は10日ほど入院する必要がありますが、こちらは4泊5日で退院できます。身体的負担が小さく、性機能も約7割で温存できます。

 ―放射線治療はどのような症例が対象となりますか。

 那須 「ダ・ビンチ」と同様、転移のない限局性のがんが対象です。単純にどちらの治療が優れているかを比較することはできません。患者さんの年齢や職業、人生観、性機能温存の希望、合併症のリスクなどを総合的に考え、患者さんやご家族と一緒に望ましい治療方法を考えます。

 ―遺伝子治療にも取り組まれていますね。

 那須 岡山大が発見したがん治療遺伝子「REIC(レイク)」を用いた治療を前立腺がん患者25人に行い、安全性と一定の治療効果が確認できました。保険適用されるためには次のステップとして、製薬会社と一緒に新たな臨床試験を行わなければなりません。現在はそのための準備中の段階です。

 ―せっかくの取り組みが足踏みしているのでしょうか。

 那須 代わりに、悪性中皮腫に対する臨床試験が昨秋から進んでいます。これで成果が確認できれば、次は肝臓がんでも行う予定です。「REIC」による治療は脳腫瘍にも効くことが私たちの研究で分かっており、遺伝子治療における大きな可能性を秘めていると考えています。

 ―女性医師による女性外来を設けていますね。

 那須 女性外来のある国立大学病院はそう多くありません。尿漏れやぼうこう炎などに悩む女性は多いのですが、医師、看護師は全員女性なので安心して受診してください。岡山大泌尿器科出身の大勢の女性医師が他院でも活躍しています。

 ―他にも腎移植やED(勃起不全)などの男性の更年期障害、性同一性障害に対するホルモン治療など、さまざまな治療に取り組まれています。

 那須 医師が約20人と、一般の国立大学病院の2倍ほどいるからあらゆる疾患に対応できます。岡山大は、国際的な臨床研究や人材育成を図る目的で日本医療研究開発機構が認定する革新的医療技術創出拠点プロジェクトに中四国で唯一選ばれており、現在、前立腺がん、腎臓がん、ぼうこうがんに対する国際的な新薬の臨床試験の一翼を担っています。腎移植はこれまでに61例行い、生着率は100%です。

 また、津山中央病院と共同運用する陽子線治療センターが中四国で初めて同院に開設され、岡山県内で前立腺がんのあらゆる治療ができるようになりました。岡山県を前立腺がん研究・治療のメッカにするとともに、人生80年時代のカップルライフやシニアライフをサポートする総合診療科として精進を重ねます。

 ◇

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町2の5の1、086―223―7151)

 なす・やすとも 愛媛・愛光高、岡山大大学院医学研究科修了。広島市民病院、米・べーラー医科大学留学、岡山大大学院医歯薬学総合研究科泌尿器病態学助教授などを経て、2010年、岡山大病院新医療研究開発センター教授に就任。15年から泌尿器病態学教授。13年9月から今年3月まで副病院長を務め、4月から医歯薬学総合研究科長。日本泌尿器内視鏡学会理事、日本泌尿器科学会専門医・指導医など。59歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年05月02日 更新)

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