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(2)治療の流れ(当院2011-15年データから) 倉敷成人病センター 体外受精センター長 本山洋明

本山洋明体外受精センター長

▽採卵までの調節卵胞刺激法

 卵巣には10万個ほどの卵子が卵胞の中にあります。自然では複雑な仕組みでこの中から毎月1個の卵胞だけが成熟して排卵されます。下垂体が分泌する卵胞刺激ホルモン(FSH)がその主役で、月経開始直前に上昇し、卵胞1個が発育を開始したら下降し、他の出遅れた卵胞は発育できなくなります。

 一方、体外受精では多数の卵子を得た方が1回の採卵で出産に至る可能性が高くなり、有利です。この目的でFSH製剤を注射し、自然よりも数倍高い状態を保ちます。ペン型の自己注射製品が発売されており、自宅で注射が可能です。このFSHを月経3日目から毎日1回、約1週間注射すると10個程度の卵胞が発育します。採卵の前に排卵してしまうと卵子を得られないので、排卵の引き金となるLH(下垂体ホルモン)分泌を止めてしまう薬も同時に使います。これにはGnRH作働薬を月経開始前から使用するロング法、開始後からのショート法、拮抗(きっこう)薬を使用するアンタゴニスト法などがあります。

 FSH自己注射を5、6回したら経腟(ちつ)超音波とホルモン検査をし、卵胞の発育状況を把握して採卵日を決めます。採卵時刻から逆算して36時間前(採卵2日前の夜)にヒト絨毛(じゅうもう)性ゴナドトロピン(hCG)を注射します。これにより、卵子が減数分裂して染色体が半数になり、精子を受け入れて受精できる準備が整います。同時に卵子が卵胞壁からはがれやすくなり、採卵が可能になります。hCG注射日の卵胞は直径約20mmに膨張しており多数が卵巣の中でひしめき合い、卵巣全体が「ぶどう一房」の感じになります=図1

▽採卵、受精、胚発育 

 卵巣は膣壁のすぐ裏側に接しており、経腟超音波に取り付けた採卵針を1cm刺入すると卵胞に針が入り、卵胞液3~4mlを吸引できます=図2。実体顕微鏡で採取した卵胞液をくまなく観察すると卵子が見つかります。卵子を得られない卵胞もあります。ショート法1117回において全年齢の平均で10・6個の卵胞を吸引し、7・6個の卵子を得られます。採卵針は20ゲージの細い針ですが、何度も刺して痛いので鎮静剤の点滴で眠ってもらい、15分で完了します。

 夫は精子を採取し、その数や前進運動性の状態によって通常の体外受精か顕微授精かを決めます。通常法では卵子と精子50万個/mlをシャーレに入れて受精を待ち、顕微授精では卵子に1個の精子を注入します。採卵の翌日(1日目)平均4・6個が受精し、細胞分割が進みます。2日目に標準で4分割胚(はい)、3日目8分割胚、4日目から分割速度が加速し、桑実胚と呼ばれる16~32分割胚になり、5日目に胚盤胞に成長します=図3。胎児の細胞群と外表面の胎盤の細胞群に分かれて発育し、着床が可能な構造になります。平均2・6個が胚盤胞に達します。

▽子宮内への胚移植(ET)

 5日目に胚盤胞1個を子宮に戻します。直径1・5mmの柔らかなチューブに移植胚と0・03mlの培養液を吸い上げ、チューブを子宮の内腔(くう)に挿入し、押し出します=図4。終了後は安静の必要も無く通常の生活が可能です。

 妊娠できれば採卵から21日後に胎(たい)嚢(のう)を確認できます。移植胚の数は長い間2、3個でしたが、多胎妊娠が増加し未熟児医療、NICU(新生児集中治療室)の疲弊につながって大きな問題となりました。このため2008年に日本産婦人科学会が胚移植数を1個にする勧告を出し、現在は原則1個の胚移植が主流になっています。これにより多胎妊娠は激減しましたが、その一方で余った胚を凍結保存し、融解胚移植する機会が激増し、日本は世界一の凍結胚での出産大国となりました。当院も含め、全国で新鮮胚よりも凍結胚での出産の方が2・5倍多くなっています。

◇ 倉敷成人病センター(086―422―2111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年05月02日 更新)

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