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(1)認知症であるかどうかの診察はどうしているのか 岡山中央病院 神経内科部長 林泰明

林泰明神経内科部長

 もの忘れ外来を10年余り続けてきた。診察室では医師1人で全てを行う。採血は採血室へ頼み、機器を使う検査は隣接の本院の放射線科へ依頼する。

 3年前までは、週4日の診療で午後は往診に出ていた。同じ法人の回復期リハビリ病棟の医師が足らなくなり、週3日手伝っているため、もの忘れ外来は週2日になっている。

 診察室においては、患者との会話を中心におくことを最大限に重視している。1人で「もの忘れが気になりだしたので検査を受けようと思って」と来られる方もあるが、多くは配偶者、娘、息子の1人か2人が同伴で来られる。

 狭い診察室に皆さんに座っていただき、まずご本人へ「これまで病気で入院されたことがありますか?」と話しかけることにしている。その前に耳は聞こえますかと尋ねておかねばならないが…。

 ご本人から既往歴がどの程度まで聴きだせるかで、新旧の記憶の大まかな見当が得られる。後ろへ振り向いて「なんかあったかなー」と同伴者にたずねる(振り向き症候群)。説明を始める家族を制しておいて、現在同居されているのは誰々ですかと問う。独り住んでいるが、きょうは娘と来たなどが分かる。夫はどうされたか、もし亡くなられておればどんなご病気であったか尋ねる。さらに子どもさんは何人で、どちらにお住まいか? このあたりまでのお返事を聞けば記憶障害の有無、程度が少し分かる。

 ここからさらに日々の生活の状況を尋ねる質問を続ける。当方としては、いわゆるIADL(表1の項目)を念頭に置いている。認知症は1人で暮らすことが、記憶など認知機能の低下のためにできていたことができなくなり、日常生活の維持が困難になることであると考えるからである。

 まず買い物については詳しく聴く。よく行く店の名、行く方法、米はどうしているか等々。男性は独居でなければ関与していない人も多い。財布のお金が少なくなったらどうしていますか。年金受領の方法、金銭管理はどうか推察する。次に高血圧などでくすりをもらっているかを確かめる。あれば通院先の先生の名前、通院の方法、薬はどこで受け取るか。お薬手帳をきょうもお持ちですか。なんの薬か? について説明も求めてみる。

 さらに、家事についても話を進める。炊事、掃除、洗濯など。同居者があればごみ出しは誰の分担で何曜日か。

 このあたりで同伴者の一番ご心配な点はなんでしょうかと聞く。既往歴などで本人が話せなかったことを詳しく伺う。特に糖尿病、高血圧など生活習慣病について、また失神、脳梗塞の既往はないか。

 特に同伴者に聞かねばならないことは、生活機能の低下の速さである。年の単位か月か、週の単位の変化か、何かを契機に進行したかなど疾患診断に直結する点を尋ねる。

 新患の方は予約時にCTかMRI検査の予約をしていただいているので、このあたりまでで検査へ行っていただく場合もある。その際には同伴者に質問項目のチェック用紙などを渡し、受診された動機、心配な点などを記載していただくようにしている。

 まだ検査までに時間があれば、さらに認知症の質問法をさせていただく。改訂長谷川式知能評価(表2)である。年月日・曜日から始まり、三つの言葉を覚えていただいて、他のことを少ししていただいてから思い出していただくのでしっかり覚えておいて下さい。100引く7はいくらですか、(正答であれば)それからまた7を引いて下さい。次に数字の逆唱を3桁でしてもらい、(正答であれば)4桁も。その後で先ほどの三つの言葉を思い出して下さいとお願いする。この得点合計が20点以下であると認知症を疑う一応の基準とされている。質問項目は全部で10項目あるが、前述した三つの言葉を後で思い出していただく項目を「遅延再生」といい、アルツハイマー型では早期から低下することが多い。

 このように充分な時間をかけて生活の状況を検討して、認知機能の障害のために1人暮らしの生活が困難な状態になっていると判断できれば認知症の疑いがある。もの忘れはあるが「長谷川評価」が20点以上あり、IADL(買物、炊事、入浴、金銭や薬の管理など=表1)が同居者やよく訪問する親族がみて行えており、独居生活が続けられる程度であれば軽度認知障害(表3の基準)と診断して数カ月後に再診していただく場合が多い。



 岡山中央病院(086―252―3221)

 はやし・やすあき 津山高、岡山大医学部卒。岡山医療センター勤務を経て岡山中央病院。認知症サポート医。日本内科学会認定医、日本神経学会専門医、日本精神神経学会専門医、日本老年精神医学会専門医、精神保健福祉法指定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年05月02日 更新)

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