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(3)成長障害の治療 岡山済生会総合病院 小児科診療部長 田中弘之

 成長障害の話の最後は、成長障害の治療の話です。成長障害の治療は、当然の話ですが、成長する余地が残っていないと治療することはできません。つまり、大人になってからは治療することはできないのです。また、治療効果は早ければ早い方が高いので、これまでの記事に書きましたが、成長曲線を描いて早くに発見することが大切なのです。

 成長の余地がどの程度残っているかは、骨の状態を見ることによって判断することができます。身長が伸びることは、背骨が厚くなることと足の骨が長くなることであり、それは、おのおのの骨の端にある成長軟骨で骨が新しく作られていくことで起こります。ですから、この成長軟骨の状態を評価することによって、成長の余地が評価できるわけです。

 実際の診療では、手のレントゲン写真で骨の状態が何歳の骨なのかを評価して、成長軟骨の状態を評価しています。これを骨年齢と言います。骨年齢を知ることによって、今後どれだけ身長が伸びそうか知ることができます。ただし、そのようにして予想される成人身長には±5cm程度の誤差があります。

 さて、治療法は成長障害の原因によって異なります。ホルモンが不足している場合は不足するホルモンを補充します。成長ホルモンが不足している場合には成長ホルモンを補充し、甲状腺ホルモンが不足している場合には甲状腺ホルモンを補います。栄養の不足によるものであるならば、栄養を補います。精神的なストレスが原因の場合には精神的なアプローチが必要です。実際、摂食障害が原因の場合には、成長ホルモンをいくら注射しても、成長障害は良くなりません。

 また、思春期遅発症(おくて)のように単に思春期が遅れている場合には、特別な治療は必要ありません。思春期が遅れている場合には骨年齢も遅れていて、成長の余地がたくさん残っているので、待っておれば大きくなります。

 現在、成長ホルモン治療は成長ホルモンの不足が原因の低身長症以外の低身長症にも使われていますが、これはきっちりとした治験を行って効果があった特定の病気に限られています。このように、成長障害の原因をはっきりさせることが、治療にとっては大変重要で、このために日常の診療ではホルモンの検査以外にさまざまな検査を行っているのです。

治療の目標

 治療がうまくいったかどうかは、成人身長をどれだけ正常化できたかで評価されます。この正常化を何cmとするかは、難しい問題です。現在の平均成人身長は男性で172cm、女性で158cmですが、ここまで身長を伸ばすことは医療の範囲ではないと思います。疾病としての低身長の定義はマイナス2SD以下の身長ですから、男性で159cm、女性で147cmを超える身長になれば、疾病としての治療はできたともいえます。

 また、子どもの身長は両親の身長に対する遺伝的素因を均等に受け取ったものであるとすれば、子どもの成人身長は両親の身長の平均値に男女間の身長の違いを補正した値が遺伝的に決められた身長となるので、この身長に到達できれば成人身長を正常化できたといえるのかもしれません。

最後に

 私の外来に来られる患者さんの多くが「日常生活で気をつけることはないでしょうか?」とか、「カルシウムや牛乳をたくさん食べさせたら大きくなれるのですか?」とか、「市販の健康食品やサプリメントを摂取させるのはどうでしょうか?」という質問をされます。また、インターネット上には身長を伸ばす効果があると称する高価なサプリメントや薬剤を見ることがあります。これについては詳しくは紙面の都合で説明できませんが、規則正しい生活とバランスのとれた食事が最も大事で、特定の食品やサプリメントを取り過ぎることは栄養のバランスを崩し、子どもの健康な成長を妨げることになることを、最後に注意しておきたいと思います。

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年05月16日 更新)

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