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(7)脳出血の診断と治療 川崎医科大学付属病院 脳卒中科講師 向井智哉 川崎医科大学付属病院 脳神経外科講師 松下展久

向井智哉脳卒中科講師

松下展久脳神経外科講師

 今回は脳出血に関し、内科・外科の立場より取り上げます。前半は内科の立場から、後半は脳神経外科の立場から解説します。

脳出血とは

 脳卒中はかつて国民病と言われ、1981年に「がん」がその座を奪うまで日本人の死因の第一位でした。脳卒中は二つに分類され、脳梗塞のように「血管が詰まる」ものと、脳出血のように「血管が破れる」ものがあります。厚生労働省のデータによると、60年代から徐々に脳出血が減り、75年に脳梗塞と順位が入れ替わっています=グラフ。脳出血の治療が進歩したことや食の欧米化が原因と考えられています。

原因

 原因を知り、発症を予防することが重要です。脳出血の原因は8割が高血圧であると言われています。また、脳出血の発症には季節変動があり、夏に少なく冬に多いことが知られています。冬期の低温や塩分摂取過多が原因と考えられています。

 皆さんは、戦国大名の上杉謙信をご存知でしょうか? 雪深い越後の国を本拠とし、酒と肴(さかな)を愛しましたが厠(かわや、トイレ)で倒れ、数日後に息を引き取ったと言われています。高血圧性脳出血で亡くなったものと考えられています。寒さと塩分過多には十分注意が必要ですね。なお、1日の目標塩分摂取量は男性8グラム/女性7グラムですが、実際には男性11・1グラム/女性9・4グラム摂取しているというデータがあります。

診断・治療

 微細な脳血管が破綻するために起きる病気であり、出血する場所によって症状はさまざまです。頭部CTやMRIなどで診断をつけます。治療ではまず血圧の管理を行います。

治療(主に手術)について

 脳出血は、それ自体が脳組織を破壊する病変であるため、一度発症すれば何らかの機能障害が起きます。従って血腫(出血によってできた血の塊)を外科的に摘出しても、既に破壊されてしまった脳組織は修復されないため、手術適応は慎重に判断する必要があります。しかし、脳は頭蓋骨に包まれた閉鎖的な空間であるため、一定量を超える出血が起きると周囲の正常な脳組織を圧迫して二次的な障害をきたし、場合によっては致命的となってしまうことから、手術による血腫除去が必要となることは少なくありません。

 脳内の血腫を除去するためには、頭蓋骨を通過しなくてはなりません。従来は開頭(大きく切った皮膚をめくり頭蓋骨を外して行う通常の脳外科手術)を行い、一部の脳を通過して脳内の血腫を除去していましたが、広い視野を得るためにはある程度の脳を開く必要がありました(図1)。

 このような手術自体による脳への侵襲を最小限とすべく、近年は内視鏡下に血腫除去が行われるようになってきました(図2)。

 光学機器や手術機器の開発が進み、精細な画像を見ながら手術ができるため、多くの脳出血の原因である穿通枝(せんつうし、顕微鏡で見てようやく分かる程度の細い血管)からの出血は訓練を受けた術者であれば、安全に止血できるようになっています(図3、4)。

 しかしながら、脳動脈瘤や血管奇形などの複雑な処置を要する出血源への対処は容易ではなく、全ての出血を内視鏡で対処できるわけではないことを心に留めておく必要があります。

 むかい・ともや 広島学院高、熊本大医学部卒。広島大病院、国立循環器病センター勤務などを経て2015年より現職。内科認定医。神経専門医。脳卒中専門医。神経超音波検査士。

 まつした・のぶひさ 近畿大付属和歌山高、徳島大医学部卒。高知赤十字病院などを経て2012年徳島大病院特任助教。2013年より現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年05月16日 更新)

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