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がん陽子線治療センター本格稼働 岡山大学病院 金澤右副院長に聞く 最新機器備え西日本の拠点に

がん陽子線治療センターについて語る岡山大病院副院長の金澤右・放射線科教授

患者を治療する陽子線照射室。奥側に回転ガントリーが設置されており、男性が示す部分から陽子線が照射される

陽子を光速の70%まで加速させる「加速器」。電磁石に覆われた円形の軌道を繰り返し回りながら速度を上げ、回転ガントリーまで運ぶ

照射室裏側の回転ガントリー(直径約4メートル)。360度回転でき、任意の方向から陽子線を照射できる

津山中央病院敷地の北西に建つ「がん陽子線治療センター」

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)と津山中央病院(津山市川崎)が共同運用する「がん陽子線治療センター」。今年3月、津山中央病院内に開設され、4月から本格的な治療が始まった。陽子線治療の仕組みやセンターの設備、治療の流れなどについて、岡山大病院副院長の金澤右(すすむ)・放射線科教授に聞いた。

 ―陽子線治療の仕組みは。

 水素の原子核である陽子を抽出し、加速器を使って光速の70%まで加速すると、がん細胞を破壊する力を持った陽子線になる。最大の特長は照射時に、腫瘍部分で最大エネルギーを放出するように調節でき、その奥へは通り抜けないこと。これが従来のエックス線との最大の違い。腫瘍だけを攻撃し、正常細胞へのダメージを最小限にできる。治療は1日1回で、10~32回程度照射。期間は平均1カ月強かかる。

 ―センターの設備の特色は。

 国内11カ所目の陽子線治療施設として、最新技術を備えた機器を導入。治療室1室で複数の照射方法を選択できる。特に腫瘍の形状に沿って塗りつぶすように照射する「スキャニング法」は、正常細胞への照射をより少なくできる新しい技術。国内でも施術できる施設はまだ少ない。

 ―センターで陽子線治療を受けるにはどうすればよいか。

 主治医に両病院いずれかの陽子線治療外来を紹介してもらい、受診。適応の症例かを判断する。主治医がもつCTなどの画像データや検査結果があれば、よりスムーズに判断できる。適応が決まれば、治療計画を立て、固定具やビームを腫瘍の形に整える器具(ボーラス)を作製し、実際の治療に入る。

 ―適応のがんの種類は。

 前立腺がん、肝がん、頭頸部腫瘍、肺がんなど塊状のがんに強い。多発転移があると適応できないが、転移が3個以下なら適応できることも。手術が第一選択となる胃腸のがん、過去に放射線治療を受けている場合などは適応外となる可能性がある。センターでは当面、前立腺がんの治療から開始し、特定の患者で治療実績を積み上げている。今後は治療できるがんの種類を増やしたい。4月から保険診療となった小児がんについては、ただちに保険診療を始めるのは難しいものの、将来的に実施できるよう準備を進めている。

 ―最新設備であることのほかに強みは。

 福井県以西で唯一の総合病院であることが一番の強み。がんには集学的治療が必要で、陽子線治療中に合併症を発症しても、専門科で対応できる。抗がん剤など化学療法の併用も可能。高齢化社会では複数の疾患を同時に患うことも多く、総合病院であれば体のトータルケアができる。さらに岡山大病院が共同運用することで、中四国にある数多くの関連病院から患者の受け入れが進みやすい。大学の寄付講座で、より有効性の高い治療手法などの研究を進めると同時に、学生や若手医師の実践教育にも力を入れる。陽子線に関する治療、研究、人材育成で、西日本の拠点を目指している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年05月16日 更新)

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