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(4)凍結胚移植(凍結ET)、胚培養士 倉敷成人病センター体外受精センター長 本山洋明

本山洋明体外受精センター長

 体外受精や顕微授精で受精し発育中の形態良好胚をいったん凍結保存して、後日融解し子宮に戻す方法を凍結胚移植(凍結ET)といいます。凍結ETでの世界初の出産はオーストラリアで1983年、日本では89年でした。

 当院では91年から現在までに646人が出産しました。そのうちの1人は採卵を26歳で行い、17個の卵子を得て、乏精子症のため顕微授精し、8個が胚盤胞に発育しました。7個を凍結保存し、1個を新鮮胚移植(新鮮ET)して1人目を出産しました。3年後に1個を凍結ETして2人目を出産し、その4年後に再び1個を凍結ETして3人目を出産しました。

 1回の採卵で7年の間に新鮮胚と凍結胚とで3人の子を希望の時期に得ました。凍結保存が長期間に及んでも新鮮胚の生命力が正常に保たれ、融解後に新鮮胚と同じ発育が始まることを証明した一症例です。他にも新鮮胚と凍結胚、あるいは凍結胚だけで2人や3人の年齢違いの子を出産した例が多数あります。凍結期間が年余にわたることがありますが、大多数(85%)の症例は新鮮ETが不成功だった翌月など1年以内の凍結期間で凍結ETしています。

▽胚凍結と融解の方法

 2000年ごろまで凍結保存は緩慢凍結法で2時間以上を要しました。その後研究が進み、30分以内に凍結操作を完了できる簡便さと実用性に優れ、なおかつ成績の良いクライオトップを用いた超急速ガラス化凍結法が現在では主流になり、当院でも06年に導入しました。

 クライオトップに耐凍保護液の極微小滴を乗せ、この中に前処理をした胚を浸します。これを直ちにマイナス196℃の液体窒素に漬けて凍結させ、液体窒素タンク中に保管します。良好に発育した大きな胚盤胞は胞胚液が凍結傷害の誘引になるので吸引縮小させて凍結します。

 融解は37℃の融解用培養液にクライオトップを漬けて胚を取り出し、細胞内の耐凍保護剤を浸透圧の異なる培養液で段階的に抜き、通常の胚発育用の培養液に入れて完了です。融解操作も30分以内で完了します。

▽臨床成績

 凍結胚は融解した後、18時間ほど追加培養して発育再開を確認し、自然排卵やホルモン剤投与で調整した子宮内膜にET(胚移植)します。図1は当院ARTの道筋です。2011―15年に1003人に1891回採卵し、新鮮ETの1341回のうち750回(56%)で凍結保存でき、257回が出産しました(ET当たり19%)。出産できなかった症例に960回凍結ETし、218回(同23%)が出産しました。

 一方、卵巣過剰刺激症候群などのため新鮮ETをせず全胚凍結保存した278回に凍結ETを486回行い、118回(同24%)が出産し、凍結ETは新鮮ETの出産を上回りました。これは自然排卵の子宮内膜の方が着床環境が有利なためと考えられ、この結果から新鮮ETを行わない施設も多くあります。2013年日本産婦人科学会集計での出生児数は新鮮ET1万406人に対して凍結ET3万2148人と多数でした。

 図2は新鮮ETと凍結ETをET当たりで比較したものです。35歳未満での出産率は新鮮ET33%に対して凍結ET37%で凍結保存による低下はなく、流産率も新鮮ET16%対凍結ET13%で、凍結による増加はありませんでした。他の年齢区分においても同じ結果で、凍結ETが安全であることがわかります。

▽胚培養士

 本稿で4回お話ししたARTで最も重要な部分、卵子、精子の操作、体外受精、顕微授精、受精胚の培養、凍結保存などは胚培養士が行っています。当院では4名が微小な対象に緻密で根気のいる作業を、早朝から細心に着実に優しく取り行い、新たな命の誕生の主役として寄与しています。最近岡山大学に日本初の胚培養士養成講座、ARTセンターが設立され、体系的な専門教育を受けた胚培養士が輩出されつつあり、今後のART成績の向上へ期待されます。

◇ 倉敷成人病センター(086―422―2111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年06月06日 更新)

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