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(4)心理的支援Ⅲ~乳がん手術後に焦点をあてて おおもと病院がん看護専門看護師 森川華恵

森川華恵がん看護専門看護師

最善の治療を納得して自己決定することが大切

 乳がんの治療は、複数の治療法を組み合わせて行います。どのような治療法をどんなタイミングで行っていくかは、諸検査結果、乳がんの分類やその時点の病気の状態の要素等が加味されて選択されます。これに加えて、患者さん自身の年齢やライフスタイル、手術や薬物療法などに対する考え方や希望も、治療を選択する際の重要な判断材料になります。がんの治療法の基準になるものとして、ガイドラインがあります。これを基に「このような乳がんの場合は、この治療が良い」最善と考える治療が示され、患者さんの希望とすり合わせながら治療を決定していきます。

 最善の治療を自己決定するためには、医療者とコミュニケーションをとり、良い関係性をつくることです。そして、理解や納得ができないことは、何度も質問して自分で咀嚼(そしゃく)できるようになることで、一人一人にとって納得した最も良い治療を選択し、決定できるようになります。

妊娠・出産と乳がん治療

 乳がんの治療が「妊孕(にんよう)性(妊娠することができる力)」に影響を及ぼし、場合により手術後の身体的・精神的な苦痛、あるいは薬物療法などの治療によって不妊になることもあります。もちろん、治療中は確実な避妊が必要です。妊娠の希望がある方は、躊躇(ちゅうちょ)せず、まずは乳がんの治療前に乳腺専門の医師・看護師に相談することが大切です。

乳がんによる心身の苦痛を和らげる方法

 乳房にしこりをみつけた時や、実際に乳がんと診断されて以降、多くの患者さん・家族はさまざまな不安を抱え、混乱を感じるなど、それが生活に影響を与えることもあります。不安になったり戸惑ったりするのは正常な心の反応です。不安は、身体の状態がどうなるか分からないこと、今後の治療の見通しが不確かなこと、家族や仕事への影響など、いろいろなことに思いめぐらせることで起こります。

 不安に対処するには、乳がんの知識を有する医療者に話を聞いてもらえることで不安の原因や自分の気持ちの整理ができ、精神的な支えとなって気分が軽くなることもあります。今日、インターネットなどから誰もが膨大な情報を得ることが可能です。一方で、それらの情報の全てが正しいとは限らず、情報に振り回されて不安を強めている方もいます。一人で抱え込まず、医療者や家族など周囲の人に率直に話をしてみましょう。

 当院には、おおもと会(年1回)とピンクリボンの会(3カ月に1回)という乳がん患者会があります。そこで患者さん同士で話し合い、問題を解決する方、乳がん看護認定看護師による看護相談を利用する方や看護師に直接相談に来院する方もいらっしゃいます。もちろん家族が医療者に相談するということもあります。

 乳がん体験者によれば、「自分の病気の症状に耳を傾けること、上手に病気と付き合っていくこと、それが辛さを乗り切っていく一番の近道だったかもしれない」とも語られています。

 不安やストレスを自分一人で解消することは難しいものですが、深呼吸やストレッチをするなど自分に合った方法でリラックスすることも効果的です。特に腹式呼吸がおすすめで、1分間に1呼吸ぐらいのスピードで行うのが理想です。そして、前向きな気持ちで張り合いを持って過ごすことは、乳がんの治療のためにもプラスになります。

 緩和ケアは、治療中の痛みや倦怠(けんたい)感、乳房の形が変わったことによる精神的苦痛や疲労感、緊張や不安、治療や周囲の環境への不満を和らげるため、そして、がんになったことで生じた経済・社会的な問題などを解決して日常生活を継続するためにも必要になります。これらのケアは、患者さんや家族ががんと診断された時より受けることもでき、治療の継続や病状の回復、日常生活の質の維持・向上にも効果があります。



 おおもと病院(086―241―6888)

 もりかわ・はなえ 広島県・英数学館高、吉備国際大看護学科卒。2004年おおもと病院に入職。岡山大大学院博士前期課程修了。2012年がん看護専門看護師。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年06月20日 更新)

タグ: がん女性おおもと病院

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