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(3)認知症、軽度認知障害(MCI)の原因疾患の診断~〈Ⅱ〉アルツハイマー型とレビー小体型の診断 岡山中央病院 神経内科部長 林泰明

林泰明神経内科部長

 アルツハイマー型(以下ア型)認知症もレビー小体型認知症も、脳の神経細胞にたんぱく質の変質したものがたまり、神経細胞が脱落していく非常にゆっくりとした変性というプロセスで、脳卒中とは桁違いに緩慢に生じるものです。

 変性型には今回省いた前頭側頭型認知症などもありますが、変性型の診断には認知障害のゆっくりとした進み方の認識が重要です。本人の様子をよく知るひとから生活の変化を詳しく聞いて、ア型、レビー小体型の特徴(表1、2)に合う点、合わない点を画像所見も合わせて吟味して診断します。

 ア型認知症には末期まで身体症状はなく、主症状は(数週から数分前のことを忘れる)近時記憶の障害でエピソード記憶の障害が特徴的です。

 例えば老人会の旅行に夫婦で参加した1カ月後、一緒に行った知人と会って旅の話になったとします。泊まったホテルの名が思い出せないことはあるとしても、旅へ行ったこと全体を忘れるのがエピソード記憶障害です。昔、卒業した小学校の名前はすぐ答えられ、遠い過去の体験(遠隔記憶)は思い出せます。

 近時記憶障害が進むと同じことを何度も問うようになり、買い物や年金や薬の管理が今までのようにできなくなり、炊事の失敗も増えます。同居している娘であれば母親の変化にすぐ気付きます。同居の夫にも注意や判断力の低下があると妻の変化に気付かない夫婦の認知障害の同時進行もあり得ます。

 このような近時記憶障害から始まる生活機能の低下が「年の単位」で徐々に進行するのがアルツハイマー型の特徴です。生活状況の情報と問診の結果で症状に合わない点がなければア型を疑います。

 もの盗られ妄想などBPSD(行動・心理症状)では「鍋を盗られた」、「嫁が着物を盗る」という女性例を思い出します。徘徊(はいかい)は買い物に出かけて10キロ先で保護された女性例や、毎日散歩に出かける男性が帰宅せず数回保護され携帯にGPS機能を付けて防止した例、早朝起床して仕事へ行くと外へ出かけた80代男性も印象に残っています。BPSDは介護者の負担の軽減が必要なテーマであり、診断の契機になることはまれです。

 次はレビー小体型です。往診していたころに、老夫婦宅で奇妙な経験をしました。80代のご主人が失神して前のように歩けなくなったための往診でした。夫の話を聞いてみると、うちの婆(ばあ)さんによく似た婆さんがもう一人いると言うのです。また、仏間の奥にもう一間あって(そんな部屋は実在しないが)、そこに小さい子どももいると言うのです。

 学会でレビー小体型認知症を知ったばかりでしたので診断できました。その後は何人も経験しましたが、幻視の他に失神、大声の寝言、昼間はウトウトしていることは共通でした。しかし質問法では記憶は軽度認知障害レベルでした。また明らかなパーキンソン症候はみられませんでした。

 その後、10年以上外来で診て来た80代のパーキンソン病の男性で、伝い歩きがやっとの方が、夜中に人が玄関で呼んでいると外へ出ようとして妻を困らせた例がありました。

 レビー小体型にはパーキンソン病が進行した段階で幻覚が出るタイプと、パーキンソン病の徴候は認められない段階でありありとした幻視を強い恐怖心や興奮もなく訴える始まり方があります。このような特異な症状(表2)を知っておれば診断が早くできます。また、この幻覚症状にはドネぺジルがよく効き、幻覚が消失した例を何度も経験しました。

 診断を進めるもう一つの柱は、脳の画像所見の検討です。アルツハイマー型認知症では大脳の側頭葉内側の萎縮が最初に進行することが知られています。その脳萎縮についてはMRI画像を解析してア型の特徴の強弱を数量化する方法(VSRAD)が診断に応用されています。

 また、脳血流の低下部位を画像化する脳血流SPECTでア型やレビー型の特徴の有無を検討する方法もあります。しかし患者さんの実像とこれらの画像所見が解離することも多く、それぞれの認知症と画像所見が矛盾しないか注意しています。

 また、レビー小体型では心臓への交感神経の分布を画像化できるMIBG心筋シンチグラフィーが診断に有用ですが、糖尿病があると影響があるなど、診断においては画像検査に頼り過ぎないように注意しています。

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 岡山中央病院(086―252―3221)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年06月20日 更新)

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