文字 

(27)重症新生児の治療 倉敷中央病院総合周産期母子医療センター 渡部晋一センター長

渡部晋一センター長

 ―NICU(新生児集中治療室)の受け入れ実績は。

 渡部 呼吸窮迫症候群や先天性心疾患、全身が低酸素状態になる重篤な遷延性肺高血圧症、仮死状態で生まれた子など、年間約600人を受け入れています。うち、30~40人ほどは体重が1000グラム未満の子です。広島、兵庫、鳥取、香川県などからのヘリコプター搬送も多いです。

 ―早産や低出生体重児で生まれると、どのようなリスクがありますか。

 渡部 28週未満で生まれた超早産児は脳内出血や脳軟化症のリスクが高くなり、それによって脳性まひや精神遅滞の後遺症が残る可能性があります。もう一つは肺疾患。一昔前は救命が困難でしたが、現在は日常生活に支障が出ないほどまでに治療が進歩しました。ただ、大人になってから肺気腫などにかかるリスクが指摘されており、経過観察が必要です。

 ―重症な症例ではどのような治療をしますか。

 渡部 重度の呼吸不全に対しては、静脈血を体外に排出して二酸化炭素を除去した上で体内に戻す体外式膜型人工肺(ECMO)の治療をして心臓と肺の機能をサポートします。腎不全には人工透析、遷延性肺高血圧症には肺血管を広げ心臓から肺への血流を良くするため、一酸化窒素の吸入などを選択します。敗血症や感染症では、さまざまな障害を引き起こすサイトカインと呼ばれる物質を血液浄化療法によって除去します。また、人工呼吸器を長く装着していると気管がつぶれやすくなるため、気管支ファイバーを用いて気管の状態を調べます。いずれも全国でトップクラスの実績があります。

 ―仮死状態で生まれた場合もこれらの治療で対応できますか。

 渡部 仮死状態の子は脳性まひにさせないよう、低体温療法をします。3日間、全身を34度に冷やして脳を保護するのです。国内では最も早い1998年から行っており、効果がある患者は限られますが、約100例の実績があります。ただ、出産後6時間以内に治療を開始しなければ効果が見込めず、肺出血や頭蓋内出血が起きているときは治療できないのが難点です。

 ―その限界を乗り越えるために全国で初めての難度の高い治療を成功させたそうですね。

 渡部 昨年4月、仮死状態の新生児に対して低体温療法と併用し、自分の臍帯血(さいたいけつ)から分離した造血幹細胞を移植しました。造血幹細胞は成人の脳梗塞などに一定の効果があることが分かっています。骨髄からでは少量しか採取できないため、臍帯血を遠心分離装置にかけ造血幹細胞を採取し静脈に注射しました。赤ちゃんに後遺症はなく、順調に育っています。

 ―大きな希望となる先端治療ですね。

 渡部 この治療はまだ臨床研究段階であり、国から治療が認められているのは、当院を含め全国で6施設しかありません。重症仮死に対する十分な実績があり、かつ高額の遠心分離装置がある施設です。合併症を引き起こすことは絶対に許されないので、36週を過ぎて生まれた1800グラム以上の新生児しか治療が認められておらず、他院からの搬送もだめです。現在の実績は当院を含め3例。まだ最初の一歩を踏み出したにすぎず、治療効果とデメリット、適用可能な症例を慎重に見極めていく必要があります。そのためにこの赤ちゃんについても9歳まで成長をフォローしていきます。

 ―NICUでカンガルーケアを実践しています。

 渡部 98年から取り組んでいます。生まれた直後から親子が切り離されている状況の中、親子の絆を深めたり愛着形成を図るため、赤ちゃんを保育器から出して親に抱いてもらっています。家族がいつでも対面できるよう、面会時間も制限していません。産科で行われるケアは早期母子接触と呼ばれるもので、(普段母子が切り離されている)NICUで行われているのが、本来のカンガルーケアです。

 ―退院後のフォローにも力を入れています。

 渡部 1500グラム未満で生まれた子どもを対象に、発育にとって最も重要な2歳から3歳までの1年間、2カ月おきに集まってもらい、遊びを通して心身の発達を促す取り組みを続けています。「どんぐりの会」といって20年目を迎えました。さらに、1000グラム未満で生まれた子どもは少なくとも高校入学までの間、その子らしい充実した学校生活を送れているか、知力と体力に見合った進路選択ができているかを確認します。新生児医療に関わる医師の責任だと思っています。

    ◇

 倉敷中央病院(倉敷市美和1の1の1、086―422―0210)

 わたべ・しんいち 東京・城北高、山口大卒。広島大病院、広島赤十字・原爆病院などを経て、1992年に倉敷中央病院へ。小児科医長、総合周産期母子医療センター主任部長を経て、2015年4月から現職。日本小児科学会専門医、日本周産期・新生児医学会新生児専門医制度(暫定)指導医。日本未熟児新生児学会評議員・幹事、新生児医療連絡会中四国地区代表役員、日本小児呼吸器疾患学会中国地区代表委員など務める。53歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年06月20日 更新)

タグ: 女性子供お産倉敷中央病院

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ