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(23)ペインクリニック 笠岡第一病院ペインクリニック内科 森田善仁診療部長

臨床心理士、理学療法士、看護師と一緒に治療方針を話し合う森田診療部長(左から2人目)

腰に局所麻酔をする森田診療部長

 「この患者さんは頸(けい)部の痛みが再発しました。神経ブロックとリハビリテーションに加え、痛みにも過敏なようなのでカウンセリングも行おうと思います。皆さんのお考えを聞かせてください」

 森田が患者の症状を説明し、今後の治療方針についてスタッフに意見を求めた。森田が目指すチーム医療の充実。スタッフがそれぞれの立場から意見を出し合うカンファレンスにもおのずと力が入る。

 椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、脊柱管狭窄(きょうさく)症、関節痛、座骨神経痛、帯状疱疹(ほうしん)、三叉(さんさ)神経痛、がんに伴う痛みなど幅広い疾患に伴う痛みを対象に、2012年11月に開設されたペインクリニック内科は、リハビリと心理療法(カウンセリングや認知行動療法など)を組み合わせた治療を行っている。他院にはない大きな特長だ。

 通常、診察、リハビリ、カウンセリングはそれぞれ個別に行われるが、理学療法士と臨床心理士に診察に立ち会ってもらっている。患者の悩みやつらさを直接聞いてもらい、最適な治療につなげるためだ。

 森田は「痛いということは心と体のストレスサインであり、カウンセリングとリハビリの両面から支える医療が必要。フェイス・トゥ・フェイスの小回りの利くチーム医療を提供できるのがうちの強みです」と胸を張る。

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 森田は、国内のペインクリニック治療をけん引してきた順天堂大病院で6年間腕を磨いた。同病院は、痛みが引かず他院を転々とし最後の頼みの綱として訪れる人が多かった。ただ、通院と待ち時間に何時間も費やすことに疲れたのか、治療を断念し来院しなくなる人も大勢見てきた。

 外来医長という自らの立ち位置と、理想とする医療とのギャップに悩んだ。

 「わらにもすがる思いで遠くから通ってきていたのに…。身近な病院で質の高い医療を受けられるようにしてあげたい」。地域医療に身をささげることを決断した理由を話す。

 森田は、問診にじっくりと時間を掛ける。痛みのとらえ方は人それぞれ違い、レントゲンやMRIの所見だけで痛みのレベルを推し量ろうとすると対応を誤る恐れがあるためだ。

 「家庭や職場での人間関係や経済的な問題などが複雑に絡み合って痛みを生んでいるケースも多い」。目には見えない痛みの要因をつかむことがペインクリニックの難しいところであり、やりがいでもある。

 最も得意とする治療法は神経ブロック。神経ブロックとは、神経に局所麻酔薬を注入し即時に痛みを取る注射のこと。代表的なものは、神経根ブロックと硬膜外ブロック。神経根ブロックは、激痛が生じないよう、レントゲンを見ながら針を直接神経内まで刺さないのがポイントだ。硬膜外ブロックは、指先の感覚を頼りに脊髄を包んでいる硬膜の外側に局所麻酔をする。

 「いずれもミリ単位の勝負です」

 針を刺す位置がずれると、効果が薄れるだけでなく、骨や筋肉、血管といった周りの組織を傷つけ、痛みを増幅させたり、最悪の場合、神経障害を引き起こす恐れがある。

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 開設当初は一日にわずか数人しか来なかった外来患者は今や20~30人に増えた。今月からは新たなステージへ踏み出した。週に二日、がんの痛みの緩和ケア外来を始めたのだ。

 がんは痛みをコントロールできれば在宅で過ごすことができることが多いが、笠岡第一病院がある岡山県西部の井笠地域では、在宅緩和ケアに取り組む医師はほとんどいない。

 「地域のかかりつけ医らと合同のカンファレンスを開き、連携を図っていく。がん患者が充実した人生を送れるよう、支えていきたい」。麻酔科医としての豊富な臨床経験と知識を終末期医療に注ぎ込む覚悟だ。

(敬称略)

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 笠岡第一病院(笠岡市横島1945、0865-67-0211)

 もりた・よしひと 愛媛・愛光高、筑波大医学部卒。広島大、JA尾道総合病院、順天堂大病院などを経て、2012年から笠岡第一病院に勤務。日本ペインクリニック学会専門医、日本麻酔科学会指導医、医学博士。福山市出身。44歳。

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神経ブロックと薬物療法

 外来で行われる代表的な神経ブロックには、神経根ブロック、硬膜外ブロック、星状神経節ブロックなどがある。

 神経根ブロックは、頸椎(けいつい)症性神経根症、座骨神経痛、帯状疱疹後の神経痛などで、原因となる神経が限定されている場合や、硬膜外ブロックの効果が弱い場合に行う。

 硬膜外ブロックは、頸部から臀部(でんぶ)まで背骨がある場所で行われる。広い範囲の痛みを和らげ、血流を改善でき、脊髄に近い神経に薬が効くため、即効性が期待できる。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、帯状疱疹後の神経痛など、適用となる疾病は多い。

 自律神経に作用する星状神経節ブロックは、頸部の交感神経節に薬を注入し、交感神経の働きを一時的に遮断する。頭や顔、肩、腕などの痛みに対して行うことが多いが、顔面神経まひや網膜の血流が悪くなる病気などで行うこともある。

 薬物療法は、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬などを第一選択とし、これらが効かない場合は神経障害性疼(とう)痛治療薬やオピオイド鎮痛薬を考慮するのが一般的。日本ペインクリニック学会や日本整形外科学会のガイドラインを基に、患者の年齢、肝機能や腎機能、併存している他の疾患などを考慮して薬剤を決定する。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年07月04日 更新)

タグ: がん笠岡第一病院

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