文字 

(1)アナフィラキシー 岡山済生会総合病院小児科医長 小倉和郎

小倉和郎小児科医長

 アレルギーとは、食物アレルギー、薬物アレルギー、気管支喘息(ぜんそく)、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎等さまざまな疾患の総称です。その中でも、緊急性があり生命の危機が考えられるものに、アナフィラキシーがあります。

 アナフィラキシーとは、「アレルゲン(原因となる物質)等の進入により、複数臓器、全身性にアレルギー症状が惹起(じゃっき)され、生命に危機を与え得る過敏反応」のことであり、「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合」をアナフィラキシーショックと呼びます。

 (1)発赤(紅斑、蕁麻疹=じんましん=等)等の皮膚症状に、息が苦しい等の呼吸器症状あるいは血圧が下がる等の循環器症状を伴う、(2)原因(あるいは原因になりうる物質)に暴露した後、数時間以内に、発赤(紅斑、蕁麻疹)等の皮膚症状、息が苦しい等の呼吸器症状、腹痛(嘔吐=おうと)等の消化器症状、血圧が下がる(意識がおかしくなる)等の循環器症状の二つ以上が認められる、(3)原因物質(アナフィラキシーを誘発する原因と判明している物質)に暴露後、数時間以内に血圧が下がる(意識がおかしくなる)等の循環器症状が認められる、この(1)~(3)のいずれかに該当する状況であればアナフィラキシーと診断されます。

 ただし、この状況にあてはまるとしても、必ずアナフィラキシーと診断されるわけではなく、気管支喘息発作や失神等の他疾患の可能性も考えられます。

 アナフィラキシーの誘因としては、食物、蜂毒、薬剤(抗生剤、造影剤等)が多いですが、小児科領域では食物を原因としてアナフィラキシーを発症することが多く、鶏卵、牛乳、小麦が多くの症例で原因となっています。

 アナフィラキシーの症状としては、皮膚、消化器、呼吸器、心血管系、中枢神経症状等さまざまな症状が認められますが、必ずどの症状が認められるか決まっているわけではありません。つまり皮膚症状(発赤、蕁麻疹)が多くの症例で認められますが、必ず認められるわけではないことに注意が必要です。

 アナフィラキシーを発症した時には、速やかに医療機関を受診することが勧められます。また、既にアナフィラキシーを発症する可能性があると診断され、「エピペン」を携行している人ではエピペンを使用し、速やかに医療機関を受診することが勧められます。

 (消化器症状として)繰り返す嘔吐と我慢ができない持続する腹痛、(呼吸器症状として)のどが締めつけられる、声がかすれる、犬のほえるような咳(せき)、ぜーぜーする呼吸や呼吸がしにくい状態、(全身状態として)唇や爪が蒼(あお)白い、脈が触れにくい、意識が朦朧(もうろう)とする、ぐったりする、尿便を漏らす、これらの症状が一つでも認められる状態ならエピペンを使用すべきであると、日本小児アレルギー学会から2013年に示されています。また、一度症状が落ち着いた後、数時間経過してから再度誘発症状が認められることがある(二相性)ため、注意が必要です。

 アナフィラキシーの再発予防では、まず誘発因子を特定し、その誘発因子を回避することが大切です。誘発因子の特定には、血液検査(Immuno CAP他)、皮膚テスト(プリックテスト他)等も参考になりますが、全ての物質に検査が可能なわけではありません。一番大切なのは、アナフィラキシーが誘発された時点から数時間前までに摂取した食事内容、内服した薬物内容、虫刺され等のエピソードを確認することになります。

 また最近では、アレルゲン免疫療法も有用とされています。以前から行われていたスギ花粉症に実施される皮下免疫療法や最近行われるようになってきた舌下免疫療法が広く実施されていますが、食物アレルギーに関しても「経口免疫療法(Oral Immunotherapy)」が、アナフィラキシー対策や耐性獲得を目的に一部医療機関にて実施されています。しかし、現在において研究段階の治療法であり、治療効果、治療過程におけるアナフィラキシー発症、目標量の設定等の未解決問題が多く、現時点で一般的診療として推奨されていません。

     ◇

 岡山済生会総合病院(086―252―2211)

 おぐら・かずお 岡山一宮高、島根医科大(現島根大)医学部卒。独立行政法人国立病院機構岡山医療センター小児科、藤田保健衛生大学(第2教育病院)坂文種報徳会病院小児科などを経て、2012年4月から現職。日本小児科学会専門医、日本アレルギー学会専門医(小児科分野)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年07月04日 更新)

ページトップへ

ページトップへ