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(6)ホルモン療法中の生活への支援 おもと病院がん看護専門看護師 森川華恵

森川華恵がん看護専門看護師

 乳がんは、局所療法である手術や放射線療法に加え、全身療法である薬物療法を組み合わせて治療する場合が多いです。他臓器への転移がないと画像などで診断されていても、病理結果によって、既に起こっているかもしれない微小転移を根絶し、乳がんを完全に治すことを目指して治療します。

 薬物療法には、ホルモン(内分泌)療法や化学療法、分子標的療法の3種類があります。単独で行うこともあれば3種全てを併用することもあります。今回は、ホルモン療法中の生活支援についてお示しします。

 ホルモン療法とは、乳がん細胞の増殖に必要なエストロゲンの合成を抑制したり、エストロゲン受容体をブロックして、エストロゲンとがん細胞が結合できなくすることです。

 治療のメリットは、他の薬物療法に比べると、副作用症状の出現が少ないことです。デメリットは、治療期間が長いことやホルモン療法中は妊娠できない、ホルモンの依存性がない約3割の乳がん患者さんには、治療効果が期待できない―などです。

ホルモン療法による影響

 抗ホルモン剤の副作用によるホルモンバランスが崩れることで、ほてりやのぼせ、発汗、関節痛や手のこわばりなど、更年期障害様の症状が出現することがあります。これらの症状は、薬に体が慣れるとともに、治ることもあります。また、卵巣機能の低下による月経の消失、膣(ちつ)内の乾燥など膣内環境の変化や性欲の低下などを自覚している場合もあります。

 さらに、骨密度の低下や、子宮内膜がんもわずかな頻度で高めると報告があるため、骨密度検査や婦人科検診を定期的に年に1回程度受けることを推奨しています。子宮内膜がんになる確率は、乳がんの再発・転移を予防する効果に比べると少ない確率です。不正出血などある時は、すぐに主治医に相談しましょう。

ホルモン療法中の生活

 食生活、運動、生活のリズムを整えることなども、治療による副作用の改善策です。そして、閉経後は、脂肪組織がエストロゲン様作用をするため、体重のコントロールが重要になります。

 治療中の生活の工夫は、ホットフラッシュの症状があるときは、簡単に着脱できるカーディガンやスカーフ等の活用や綿素材などの吸湿性のある素材の衣服を身につけるとより快適に過ごせます。また、治療中エストロゲンが抑えられることで、肌が紫外線の影響を受けやすくなります。紫外線から肌を守ると、シミや肌荒れを防ぎやすいです。低刺激の日焼け止めクリームやつばの広い帽子、日傘などを上手に活用しましょう。

 さらに、明るめにお化粧をするなどして、生き生きした表情になれたり、パックやマッサージをし、肌の血液循環を良くすると、顔色も良くなり、保湿作用で肌荒れを防止でき、自分らしさを保てたり、リラックス効果も高まるでしょう。

 ホルモンバランスが崩れるとイライラしたり、落ち込んだりすることがありますが、散歩や軽い運動をするなど体を動かす、好きなことをするなど、気分転換やリラックスするのも効果的です。

 膣内の乾燥に関しては、できるだけ個包装の水溶性の潤滑ゼリーを使用するなど対策があります。

 閉経後の乳がんのホルモン療法では、関節のこわばりを感じている方は比較的多いようです。患者さんにお尋ねすると、「起床時に手をさすると治るからこれくらいならと様子を見ている」とよく聞かれます。

 このように、いくらかの工夫をしながら、仕事や家事などそれぞれの役割を自分らしく果たし、折り合いをつけながら生活の一部に治療を組み込み、治療継続している患者さんが多いのです。家族を含む「社会」との関わりの中で生活することが大切で、そのような前向きな行動が周囲に与える影響も大きいと思われます。

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 おおもと病院(086―241―6888)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年07月18日 更新)

タグ: がん女性おおもと病院

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