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肝臓病の最新知見や治療法 川崎医大・日野啓輔教授に聞く

ひの・けいすけ 山口大医学部卒。同保健学科病態検査学教授、同大学院基礎検査学教授を経て2008年から川崎医大肝胆膵内科教授。日本内科学会評議員、日本肝臓学会評議員(市民公開講座企画委員)。59歳。

 目立った症状がないまま肝炎から肝硬変、肝がんへと進行する肝臓病は、治療の難しい病気と恐れられてきた。しかし近年の治療法の進歩はめざましく、早期診断と積極的な治療により、根治したり、進行を抑えたりすることが可能になりつつある。日本肝臓学会が31日に倉敷市で開く市民公開講座(山陽新聞社後援)で司会を務める川崎医大肝胆膵(かんたんすい)内科の日野啓輔教授に、肝臓病の最新の知見や治療法を尋ねた。

 ―肝がんの約60%はC型肝炎ウイルスが原因でしたが、そのC型肝炎に対して画期的な治療薬が出てきましたね。

 従来はインターフェロンという注射剤でしたが、新しい薬は飲み薬で、副作用もインターフェロンに比べて圧倒的に軽いです。非常によく効いて、95%前後の人でウイルスが消えてなくなると期待できます。高齢者や、以前にインターフェロン治療を受けて成功しなかった人、肝硬変に進行した人でも9割くらい効きます。治療をあきらめる必要がなくなりました。

 ―なぜそんなに効くのですか。

 新薬はウイルスが増殖する遺伝子の複製過程を狙い撃ちします。ウイルスの遺伝子型によって薬を組み合わせる必要がありますが、日本人患者の大半を占める型で排除できると考えていいと思います。今後はいろいろな遺伝子型に効く薬も開発される見込みです。

 ―薬の服用期間を教えてください。

 12週間です。非常に高額な薬ですが、国の助成制度があるので、所得によって月1万円または2万円の自己負担で治療を受けられます。今まで症状がないからいいだろうと、ウイルス排除を目指していなかった人に、ぜひ治療を受けてもらいたいです。

 ―ウイルスが消えれば、肝がんに進行することはありませんか。

 インターフェロンでウイルス排除に成功した人でも、10年で5~10%程度の人が肝がんになっています。今後は高齢者や肝硬変の患者さんもウイルス排除が可能になりますが、これらの人たちはより肝がんになりやすいので、ウイルス排除後もフォローアップが大切です。定期的に受診してもらい、お酒を飲み過ぎていないか、体重が増えていないかなどをチェックしていくことが重要です。

 ―肝硬変の治療も変わってきているそうですね。

 これまで肝硬変は安静が必要と考えられていましたが、筋肉は肝臓の働きを助ける上で重要だということが明らかになりました。従って、肝臓がよく機能している段階の肝硬変では、積極的に動いて筋肉量を落とさないようにすべきという考え方になってきました。栄養管理も重要です。エネルギー代謝の面から考えると、朝食前には一種の飢餓状態となっているため、適切なカロリーの夜食を勧めるようになってきました。

 さらに肝機能が低下した非(ひ)代償(だいしょう)性(せい)肝硬変になると、腹水や浮腫の合併症を起こしやすくなります。従来薬と異なる仕組みの利尿剤が最近認可され、難治性の腹水や浮腫にも効果が認められました。この薬が効いて、穿刺(せんし)して腹水を抜く機会が減れば、生活の質の向上も期待できます。

 時には睡眠障害にもつながるような強いかゆみを自覚することがありますが、この合併症にも新しい薬が認可され、多くの患者さんのかゆみを軽減できるようになりました。

 ―がんになった場合でも、内科的な治療が可能でしょうか。

 がんに栄養を送る動脈を詰まらせ、兵糧攻めにする塞栓療法の材料として、大きさが均一の球状塞栓物質(ビーズ)が使えるようになりました。一部は粒子内部に抗がん剤を含有し、腫瘍内で放出する薬剤溶出性ビーズとしても使用可能です。治療はまだ始まったばかりで、成績は今後の結果を待つことになります。

 公開講座を通じて、どんな人が肝がんのリスクが高いかを知ってもらい、きちんと検査を受けていただきたいと思います。がんになっても、進行具合に応じて仕分けされた細やかな治療法があります。日本の肝がん治療は世界一の水準にあると言っていいでしょう。

    ◇

 市民公開講座「知ってガッテン! 肝臓病の新知識」は31日午後2時~4時、川崎医大現代医学教育博物館(倉敷市松島)で開かれる。同大肝胆膵内科の仁科惣治講師がC型肝炎、同科の富山恭行講師が肝がん、岡山大消化器・肝臓内科の高木章乃夫准教授が肝硬変について、それぞれ最新の診断・治療法を説明する。予約不要で入場無料。問い合わせは川崎医大肝胆膵内科の事務局(086―462―1111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年07月18日 更新)

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