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(5)回復期リハビリ病棟での認知症診療からみえて来るもの 岡山中央病院神経内科部長 林泰明

WHOが制定した国際生活機能分類の理念

林泰明岡山中央病院神経内科部長

 もの忘れ外来とともに回復期リハビリテーション病棟でも認知症の診療をしています。回復期リハビリは介護保険と同じ2000年に制定されました。急性期病院で脳卒中の治療をした後や骨折の術後には早期にリハビリが開始され、継続して集中的にリハビリを行う回復期リハビリ病棟への転院へと進められます。

 2001年にWHOが制定した国際生活機能分類の理念==はリハビリテーションの新しい見方を示して介護保険や回復期リハビリに大きな影響を与えています。心身の「機能障害」が「活動」を制限し社会「参加」を制約する一方向への推移を「リハビリテーション」が双方向性に変え、社会へ「参加する」ことで日常の「活動性が改善」し、さらに心身の機能が改善するという概念を回復期リハビリでも日々意識しています。

 50床の回復期リハビリ病棟は看護師、介護福祉士、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、ケースワーカー、医師のチームで、訓練は年中無休で行われています。

 入院時の診察では、急性期病院からの情報に基づき治療された病態の把握に努めます。脳卒中は糖尿病、高血圧、心臓病など生活習慣病が増悪して発症した場合が多くリハビリの妨げにならぬよう急性期からの治療を継続します。

 大腿(だいたい)骨骨折の術後などその他の状態で入院となった場合も高齢者ほど「老年症候群」が多くみられ難聴、視力障害、めまい、頻尿、摂食障害、体重減少、関節痛、歩行障害などはリハビリ阻害因子として注意を要します。

 急性期病院へ入院する前から明らかな認知症があった場合には情報提供書にナースコールが使えない、骨折して手術を受けたことが認識できない等が記載されているので入院後の生活に必要な介助を計画し病床の環境を準備することができます。

 リハビリ開始に支障がなければまず病床から車椅子へ移って座ることから始め、食事、排泄(はいせつ)、入浴、着替えなどの日常生活動作について訓練を進めます。進行の妨げになりやすいのは感染症、生活習慣病の増悪のほか上記の老年症候群です。ここでは(1)せん妄、(2)うつ状態、(3)認知症の例を紹介します。

 (1)せん妄は軽度の意識障害の状態で急に幻覚や独り言、興奮、易怒などを呈する状態です。手術などで急に環境変化があった時に夜間に多く生じます。

 最近くも膜下出血の術後の80歳男性で急性期から排尿障害で排尿筋収縮剤が処方されていましたが入院3日目の夜、幻視、興奮状態となり終夜介護を要しました。原因不明で継続中の多数の薬剤を中止して回復しました。後の検討で排尿筋剤の血中濃度が腎機能低下のため過剰になっていました。多剤併用は高齢者医療で別の大きな問題です。

 (2)うつ状態は脳卒中後に時々みられます。昨年経験した75歳女性は脳出血で右片麻痺(まひ)、失語があり会話不能でしたが拒食を呈し不眠も続きリハビリを始められない状態でした。抑うつ気分の判定が困難でしたが悲哀感のある表情に注目して抗うつ剤を試用して効果がありました。4カ月の入院で摂食は左手で自立、排泄は間に合うことが多い程度で入浴、着替えは全介助でしたが娘さんと同居の自宅へ退院され、デイケアへ通所して訪問診療を受けています。

 (3)認知症は自宅への退院を難しくする最大の要因です。重度の脳卒中の場合には意識が回復しても病変の部位により記憶障害や神経心理症状が続き認定リハ期間の終了までリハビリを続けても重い血管性認知症を残すことがあります。また脳卒中が、以前からあったアルツハイマー型認知症を進行させることはよくあります。

 骨折術後は認知症があっても歩行能力が回復すれば杖(つえ)歩行などで移動はできますが、認知症によりトイレを覚えられないか、ナースコールができないと排泄は誘導時のみ可能となり、入浴、着替えは介助を要する状態でリハビリ期間を終わる場合があります。この状態でも同居人があれば介護保険のサービスの利用や訪問診療を受けて在宅生活を試みることは可能でしょう。しかし独居の場合はセルフケアが可能でもIADL==の自立がないと自宅へ退院することは難しくなります。認知症のある方の回復期リハビリ病棟への入院は今後も増加します。入院中に認知症を増悪させない生活訓練療法を構築する必要があります。特に独居高齢者については介護予防の拡大と生活支援施設の増加が必要と思われます。

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 岡山中央病院(086―252―3221)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年07月18日 更新)

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