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キーワードは「患者主体」「地域連携」 倉敷中央病院(倉敷市美和)山形専院長

山形専院長

赤い屋根瓦が特徴の倉敷中央病院。医師、看護師ら約3000人が働き、1日平均で外来2800人、入院1070人の患者に対応する。2015年の手術件数1万2668件は全国トップクラス

病棟のナースステーション。医師や看護師らが打ち合わせをしたり、患者の容体を見守る。JCIの認定取得の過程で一体感が生まれ、コミュニケーションが深まっている

 ―院長就任から4カ月が過ぎました。あらためて今のお気持ちを。

 山形 少し慣れてきたので、病院運営など全体が見えてきました。医療財政が厳しい中、どうしたら病院が生き残り、地域へのサービスを継続できるのかをすごく考えています。キーワードは「患者主体の医療」と「地域の医療機関との連携」です。

 ―今年3月には国際的な評価機関「ジョイント・コミッション・インターナショナル」(JCI)の認定を中四国、近畿の医療機関で初めて取得しました。

 山形 国内の認定施設は18ありますが、首都圏に集中しています。審査項目は患者さんの視点で外来から入院・退院に至る過程、機材・薬剤の納入などから管理・施設・防災といった14分野、1146項目もあります。診療現場だけではなく、事務所や倉庫、業務委託会社まで全ての業務が審査対象です。オール倉敷中央病院が評価されたわけで、だからこそ価値ある認定だと思っています。

 ―倉敷中央病院にとって認定取得の意義は何でしょうか。

 山形 大きな組織はどうしても縦割りになりがちで、セクショナリズム、マンネリ化も出てきます。それは病院の活性を落としてしまいます。職員が団結して一つのベクトルに向かって進もう、そうすれば横の筋が入り、縦割りが崩れていくだろうと考えました。病院の風土、文化を変えるのが目的で、職員の意識改革の一つの手段としてJCIを利用させていただいたとも言えるでしょう。今、その方向性がしっかり出始めています。医師と看護師、他職種の職員たちがより一層身近になり、患者さんとのコミュニケーションも増えました。それがなじんできています。これは患者さんの信頼、医師ら医療スタッフのプライドにもつながるでしょう。

 ―現在、より高いステージを目指した第3次中期計画に取り組まれています。

 山形 「患者本位」という病院創設者の大原孫三郎(1880~1943年)の理念を継承し、地域に開かれ、信頼される病院を目指し、さまざまな取り組みをしています。2014年4月に人材開発センターを立ち上げ、今年5月には医療の質の改善を図るHQM(ヘルスケア・クオリティー・マネジメント)推進室を設置しました。外来や病棟など、こうした第一線をわれわれはフロントと呼んでいます。そのフロントごとに毎年さまざまな改善活動に取り組んでいますが、それをサポートする部門がHQM推進室なのです。人材開発センターで個々の質を高め、HQMで集団としての活動の質を高めようとしているのです。改善活動の多くは安全をテーマにしています。例えば転倒・転落をいかに防止するか。その場合、年間どのくらいの転倒があり、それはどういうケースで原因は何なのかを調査し、予防策を検討し、実行に移し、そして実績を検証するのです。

 ―倉敷中央病院は「がん診療連携拠点病院」の一つで、昨年度にはがん撲滅に尽力した個人、団体を顕彰する「松岡良明賞」を受賞されました。

 山形 がんは消化器系、血液系、呼吸器系などいろんな診療科にまたがっています。それを統合的に診ていこうと院内にオンコロジーセンターをつくりました。がんは診断が難しい場合が少なくありません。転移してあちこちにがんがある場合、患者さんの病状、年齢、体力なども勘案しながら、どの部位を優先するのか、化学療法、放射線療法、それとも手術を選ぶのか―などの治療方針を総合的に導き出す組織です。昨年7月から動き始めています。

 ―もう一つ大切なのが早期発見ですね。

 山形 がん検診などに当たる総合保健管理センターを新しくする計画があります。ここでは内視鏡検査を取り入れることにしています。これまで内視鏡は人間ドックでは使われていましたが、検診でも認められるようになったためです。市民の健康寿命延伸のためには、病状が悪くなって受診されるのを待つ医療から攻めの医療、すなわち、病気になる前に積極的に予防することと、異常の早期発見が大切です。内視鏡による検診で異常が見つかれば、すぐに治療に移行します。そういう時代になってきたんです。計画では現在の倍程度の規模の施設で、2年後の完成を目指しています。

 ―地域啓発の一環として「わが街健康プロジェクト。」に取り組まれています。

 山形 13年11月より当院が発起人となって始まった、倉敷市を中心とした県南18病院が連携する市民向け医療講座です。講座は地域全体で急性期から在宅まで切れ目のない医療を提供する「地域完結型医療」の整備内容と病気予防の二つをテーマにしています。継続して学んでもらうため、参加回数などに応じてプラチナ、ゴールド、ブロンズの三つのランクを設けています。達成した場合は、プロジェクトのロゴマークをプリントしたオリジナルのきびだんごやマスキングテープ、保険証ケースなどを贈呈して、市民の健康啓発活動に参加していただきます。参加延べ人数は2千人を超えました。

 ―プロジェクト発足のきっかけと、18病院が連携に至る経緯を聞かせてください。

 山形 このプロジェクトは飯塚病院(福岡県飯塚市)の取り組みを参考にさせていただきました。私がこの病院に赴任した頃、症状が安定した脳卒中患者の転院受け入れに課題があると感じていました。信頼関係の構築が必要と考え、時間を掛けて地域の医療機関を訪問しました。直接顔を合わせて話をすることで、互いの理解が進んで連携もスムーズになりました。そういった基盤の上に飯塚病院の取り組みをきっかけとして、共催病院と一緒に話し合い、発足しました。連携は「連携しよう」と言うだけで成り立つものではないのです。医療連携の基本は、草の根活動による共生志向が大切と感じています。今後もさまざまな方法で連携の輪を広げ、地域医療の好循環を生み出していければと思っています。

◇ 倉敷中央病院(086―422―0210)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年08月01日 更新)

タグ: 倉敷中央病院

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