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テロメライシンのがん治療 岡山大病院消化器外科 藤原俊義教授

藤原俊義教授

食道がん患者にテロメライシンを投与する消化器外科の医師、看護師ら

テロメライシンの特性について基礎研究を重ねる消化器外科のスタッフ

革新的な薬 2020年ごろ実用化目指す

 岡山大医歯薬学総合研究科が独自開発したウイルス製剤「テロメライシン」が、従来のがん治療を根本から変える可能性を秘めた革新的な薬として注目されている。食道がんなどで体力的に手術ができない人を主たるターゲットに、開発者の藤原俊義消化器外科学教授を中心とするグループが研究を進めている。藤原教授にこれまでの成果や実用化のめどなどを聞いた。

 ―テロメライシンはどういう効果が見込めますか。

 がん細胞のDNAは放射線治療によりいったん損傷されても修復されてしまうのだが、テロメライシンはがん細胞のDNAを修復させるタンパクを破壊するので、放射線治療の効果をより高める。また、がん細胞をつくる元となるがん幹細胞を死滅させる効果もある。これを無くすことができれば限りなく再発のリスクを減らすことができる。

 ―テロメライシンを開発しようと思ったきっかけは。

 米国のがん治療の中核施設であるMDアンダーソンがんセンターに留学していた1991年、無害化した風邪ウイルスの一種「アデノウイルス」に、「p53」というがん抑制遺伝子を組み込み、病巣に注入する遺伝子治療を開発したのがそもそもの始まり。がんが遺伝子の病気であることが明らかになってきたころで、遺伝子を使ったがん治療は理にかなっていると考えた。

 ―99年春、その技術を用いて岡山大病院によるウイルス製剤の独自開発に向け、肺がんを対象に国内初の遺伝子治療(臨床研究)を始めました。

 まずは安全性を考慮してアデノウイルスが体内で増殖しないように遺伝子操作して、臨床研究をした。15人に治療をして11人に効果が見られた。最終的に全員が亡くなったが、アデノウイルスの安全性が確認できたので、今度はがん細胞の中で増殖するように遺伝子操作した「テロメライシン」を2002年に開発した。

 ―日本よりも手続きが早い米国で臨床試験をしたそうですね。

 06年から臨床試験を開始した。最初の第1相試験はがんの種類を問わず、固形腫瘍に対する安全性を確認した。次のステージである第2相試験は食道がんに絞り効果を調べる計画だったが、リーマン・ショックが起き、ウイルス製剤を製造する岡山大発のバイオベンチャー企業「オンコリスバイオファーマ」の運営資金が厳しくなり、臨床試験がストップした。13年からは岡山大病院に舞台を移し、まずは食道がんで体力的に手術や抗がん剤治療が不可能な人を対象に、放射線療法と併用した臨床研究に取り組んでいる。

 ―食道がんをターゲットにした理由は。

 体力的に手術や抗がん剤治療ができないケースが、他の消化器系がんよりも多いためだ。岡山大病院では白川靖博准教授らの食道チームが胸腔(くう)鏡を使った低侵襲手術を積極的に進めているのだが、それでも食道がんの手術は大がかりになることがある。また、冒頭に申し上げたように、テロメライシンは放射線の効果を強める作用があることが私どもの研究で分かっているが、食道がんはその放射線治療の適応となることが多い。

 ―これまでの成果を教えてください。

 テロメライシンの投与量を、レベル1~3の3段階に設定。13年11月、投与量が最も少ないレベル1からスタートし、現在はレベル2に入った段階だ。レベル1では7人に投与し、5人に腫瘍の縮小が確認でき、2人は効果が見られず亡くなった。腫瘍が縮小した5人のうち3人はがん細胞が完全に消失していた。うち1人は離れた部位への転移再発で死亡したが、2人はお元気で、現在は治療をしていない。レベル2は計3人、投与量が最も多いレベル3では計6人に投与し、18年度内に終了する予定だ。

 ―新薬として承認される見通しは。

 この基礎研究と並行して、保険適用を目的とした治験をし「テロメライシン」の効果を実証しなければならない。大学などで行う臨床研究の質は向上しているが、治験ではさらに厳しい安全性やデータ管理が求められ、より多額の資金が必要となる。13年に東証マザーズに上場して資金力が回復している「オンコリスバイオファーマ」を主体に治験をし、20年ごろの実用化を目指す。また、食道がんのほか、骨肉腫、胃がんや大腸がん、膵臓(すいぞう)がんにも効果があることも基礎研究で突き止めており、食道がんの次はこれらの治験も進めていきたい。

     ◇

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町2の5の1、086―223―7151)

 テロメライシン がん細胞への遺伝子の運び役(ベクター)となるアデノウイルスに、細胞ががん化した時に活性化する遺伝子・テロメラーゼを遺伝子改変し組み込んだもの。がん細胞に感染すると、1日で10万~100万倍に増え、がん細胞を破壊する。正常の細胞は破壊しないので、従来の放射線治療や抗がん剤治療に比べ、副作用が格段に少ないという。

 ふじわら・としよし 岡山大学医学部卒、同大大学院医学研究科修了。2010年4月から同大学院医歯薬学総合研究科教授。現在、副病院長と低侵襲治療センター長を併任。日本外科学会理事・代議員、日本癌(がん)治療学会理事・代議員、日本がん治療認定医機構理事、日本臨床外科学会評議員・岡山県支部長、日本遺伝子治療学会理事・評議員など務める。55歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年09月05日 更新)

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