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(30)斜視・弱視の治療 川崎医科大付属川崎病院 長谷部聡眼科部長(眼科学2教室教授)

長谷部聡眼科部長

傷跡残りにくい高度な手術

 ―斜視の手術は年間400例以上と、中四国最多の実績がありますね。

 長谷部 斜視・弱視専門医が4人も診療に当たっています。これほど充実したスタッフは全国でも他に例がありません。スモールインシージョン(低侵襲)手術やアジャスタブル手術といって、術後の痛みが少なく傷跡が残りにくい最先端の手術を実践しています。

 ―スモールインシージョン手術とは。

 長谷部 通常の斜視手術は、結膜を「コの字型」に2センチほど切開しますが、私は斜めに1カ所だけ4~5ミリ切開するだけです。そのわずかな穴から手術をします。外科手術にたとえるなら、一般的な術式は開腹手術、この術式は腹腔(ふくくう)鏡手術といえます。

 ―アジャスタブル手術とは。

 長谷部 斜視手術は目の周りの筋肉(眼筋)を医師の経験値に基づき何ミリか動かします。通常はこれで終了ですが、私は手術をしたその日のうちに、視線の方向を確かめながら眼筋を眼球壁に固定する糸の結び目を微調整するのです。斜視の矯正効果には個人差があり、一般的には20~30%の割合で再手術をせざるを得ないのですが、アジャスタブル手術でフォローすることで、その割合を10%まで下げることができます。

 ―乳児の手術も行っていますね。

 長谷部 生後6カ月~12カ月の赤ちゃんに年間15件ほど行っています。3Dのような立体視の発達は2歳までに終了するので、それまでに手術をして両目で見る機会を与えてあげないと、斜視は治せても立体視は回復しません。そのことが早期に手術をする理由です。

 ―斜視が常態化せずに、たまに起こる人もいるそうですね。

 長谷部 いわゆる隠れ斜視といわれるものです。誰でも両目の視線はわずかにずれていますが、物を見るときに脳の働きによって瞬時に平行に合わせているのです。しかし、疲れたときやお酒を飲んだとき、急に真っ暗な所に入ったときなどは、脳の働きが鈍り、視線のずれを矯正できずに一時的に斜視となるのです。いったん斜視が現れると物が二重に見えたり遠近感がつかみにくくなったりします。日本人の斜視の人口は200万人程度(約2%)と言われていますが、こうした隠れ斜視はさらに多いと推測されます。隠れ斜視は目が疲れやすく、点眼では治りにくいのが特徴です。

 ―弱視はどのように治療しますか。

 長谷部 子どもは視覚的刺激を受けることで4~5歳ごろまでに視力が発達しますが、その過程で、脳の視覚中枢が十分に発達しないために弱視となります。治療は、斜視が原因なら斜視手術、屈折異常が原因なら眼鏡をかけたりします。良い方の目を覆い弱視がある方の目で強制的に物を見ていただくアイパッチ治療も行います。治療は早いほど良く、8歳を超えると効果が期待できません。

 ―近視の進行を抑制する研究も行っていますね。

 長谷部 学童期に遠近両用型の累進屈折力眼鏡をかけると、通常の眼鏡より平均で15%、近視の進行を抑制できることが自身の研究で裏付けられています。近年、さらに効果が期待できるものとして、アトロピン点眼液が注目されています。国内ではまだ保険適用されておらず、当院は、京都府立医科大病院、慶応大病院などとともに治験をしています。

 ―アトロピン点眼液について詳しく教えてください。

 長谷部 シンガポールでは、平均60~70%も近視進行を遅らせる効果があり副作用もないとの報告があります。そのデータの正確さや、シンガポールのデータがそのまま日本人にも当てはまるかどうかを確かめるため、昨秋から「近視予防トライアル」という治験を始めました。全国の小学生210人に2年間点眼をしてもらい、抑制効果を判断します。

 ―子どもの近視を防ぐために日常生活で心掛けることは。

 長谷部 近視はご両親の遺伝因子の影響が環境因子より大きいのですが、少しでもリスクを減らすためには、本を読んだりゲームをするときは目から30センチ以上離して正しい姿勢で見ることや、晴れた日はできるだけ外で遊ぶことを心掛けてください。目に良い食べ物や視力回復訓練などの情報もちまたにあふれていますが、近視予防治療として医学的に証明されたものはありません。

     ◇

 川崎医科大付属川崎病院(岡山市北区中山下2の1の80、086―225―2111)

 はせべ・さとし 朝日高、鳥取大医学部卒、岡山大大学院医学研究科修了。公立学校共済組合中国中央病院(福山市)、岡山大病院眼科講師、米・カリフォルニア州立大バークレー校、米・ジョンズホプキンス病院などを経て、2013年から川崎医科大付属病院眼科部長・同大眼科学2教室教授。日本眼科学会専門医。日本弱視斜視学会常任理事、日本眼光学学会常任理事など務める。57歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年09月19日 更新)

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