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(1)高齢者糖尿病の特徴と注意点 倉敷スイートホスピタル院長 松木道裕

松木道裕院長

 わが国は世界に類をみない超高齢者社会へ向かっています。2010年には75歳以上の後期高齢者の割合は全人口の11%を占めていましたが、団塊の世代がすべて75歳以上となる25年には18%にまで増えるといわれています。

 現在、65歳以上の高齢者の単独世帯と世帯主が65歳を超える夫婦だけの世帯は1千万世帯を超えています。今後、高齢者の独り暮らしが増えてくると、糖尿病など自己管理の必要な慢性疾患の在宅での治療が難しくなってきます。

 一方、5年ごとに発表される厚生労働省の糖尿病実態調査によると2012年に「糖尿病が強く疑われる人」と「糖尿病の可能性が否定できない人」は合わせて約2050万人と報告され、わが国の糖尿病患者は増加の一途をたどっています。

 加齢は糖尿病の強い発症因子の一つであり、急速な高齢化と相まって高齢糖尿病患者は急増していて、糖尿病患者の3分の2は高齢者であると推測されています。

 後期高齢者の糖尿病患者と心身に機能低下がある前期高齢者の糖尿病患者を高齢者糖尿病と言います。高齢者の糖尿病の特徴==は身体的、精神的な状況、そして社会的背景はそれぞれの患者によって異なり、非常に多様性に富みます。糖尿病と言われて期間が長い方から直近に初めて糖尿病と診断された方まで、個々の患者によって罹病(りびょう)期間は異なります。罹病期間が長い方は糖尿病神経障害、網膜症、腎症などの糖尿病に特有な合併症を有する頻度が高くなります。また、脳梗塞や心筋梗塞など動脈硬化が原因で起こる大血管障害を合併する頻度も高くなります。このような合併症が併発すると日常生活動作(ADL)にも支障が起きてきます。

 この他、加齢にともなって全身の筋肉量は徐々に減少し、脂肪の割合が増加し、内臓脂肪型肥満を持つ方が増えてきます。筋肉量が減ることで筋肉への糖質の取り込みが悪くなり、食事後の血糖値が上昇しやすくなります(食後高血糖)。加えて炭水化物を中心とした食事嗜好(しこう)も高齢者糖尿病で食後高血糖を示す要因の一つです。さらに体内の脂肪量が増えることでインスリンの働きも低下(インスリン抵抗性の増大)してきます。高齢になると糖尿病患者の頻度が増えてくる背景には、すい臓からのインスリンを分泌する機能が低下してくることに加え、食後の高血糖やインスリン抵抗性の増大との関連が考えられています。

 そして高齢糖尿病患者のもう一つの特徴は高血糖や低血糖となったときに症状が出にくくなることです。高血糖になると口渇(こうかつ)が強くなり、水を多く飲むようになりますが、高齢になると口渇を感じにくくなり、容易に脱水に陥ることになります。一方、経口血糖降下薬やインスリンで治療している方は食事量が少ないときや運動が多すぎると、低血糖を起こすことがあります。その症状は発汗、不安、動悸(どうき)、頻脈、手のふるえ、顔面蒼白(そうはく)などです。高齢者ではこれらの低血糖の前兆症状が乏しくなり、低血糖の処置ができないまま、意識レベルの低下、異常行動、けいれんなどの重度の低血糖が出現することになります。さらに低血糖は認知症の発症や転倒のリスクと関連があり、低血糖予防のため、高齢者は少量の薬から開始するなど、慎重に血糖値を改善していく必要があります。

 このように高齢糖尿病患者の症状や合併症には個々で差異があり、それぞれの患者に見合った治療が必要となります。

 次回は高齢者糖尿病の血糖コントロール目標と治療について述べます。

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 倉敷スイートホスピタル(086―463―7111)

 まつき・みちひろ 大分上野丘高校、川崎医科大学卒、川崎医科大学大学院修了、同大学講師、准教授、川崎医療福祉大学教授を経て2012年から現職。日本糖尿病学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年10月03日 更新)

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