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(3)特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病について 岡山赤十字病院第一血液内科部長 竹内誠

竹内誠第一血液内科部長

 自分の細胞を自分の免疫細胞が攻撃してしまう自己免疫によって発症する疾患についてシリーズで連載しておりますが、血液の病気の中にも自己免疫によって起こる病気が少なくありません。代表的な病気としては、特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病、再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血などがあげられます。

 今回はこの中でも比較的発症率の高い、特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病(以下ITPと略します)について紹介いたします。

 この病気は、主に小児に発症する急性型と、成人に発症する慢性型があります。

 急性型は2歳から5歳が好発年齢で、ウイルス感染などが先行して発症するもので、発症した時には出血症状が強いことが多いのですが、多くは半年以内に自然に治癒します。

 慢性型は20歳から40歳の女性に多い傾向がありますが、最近は男女ともに高齢者の発症も多くなっています。今回は成人発症の慢性型の病型の治療について解説いたします。

 血小板は出血などの時の止血に重要な役割をしている血球の中の成分です。通常血液1立方ミリあたり15万から40万個の血小板があります。この疾患の患者さんでは、血小板に対する自己抗体ができて、抗体の結合した血小板が脾臓(ひぞう)などでどん食細胞に壊されるため血小板の数が減ります。血小板の値は一般的に5万以上あれば、日常生活で問題になることはありませんが、2万から3万以下に減ると、自然出血しやすくなることがあります。さらに1万以下、5千以下になると重症な出血をおこす場合があります。ですから治療の目標としては、患者さんのライフスタイルによっても違ってきますが、血小板の値を3万以上に維持することが目標になります。

 この病気に対する治療で、一見ユニークなのが、ピロリ菌の除菌です。この菌は胃・十二指腸潰瘍や胃がんなどに関係していることが分かっていますが、ITPの患者さんの胃の中にピロリ菌が生息している場合は、ピロリ菌を除菌することで約6割の患者さんで血小板が増加します。この病気とピロリ菌との間には不思議な関係があるようです。

 ピロリ菌が胃の中にいない場合、あるいはピロリ菌除去でも効果がなかった場合には、以前から行われていた治療法ですが、副腎皮質ステロイドで自己免疫を抑えることで血小板を増加させます。副腎皮質ステロイドは初め大量の内服から開始して、その後少しずつ量を減らしてゆきます。この治療でもうまくいかない時には、脾臓を摘出する手術が以前より行われてきました。これは自己抗体がくっついた血小板を壊している脾臓をとってしまうものです。また最近では血小板を増加させる働きを持っているトロンボポエチンという物質が作用する部位を刺激して血小板を増加させる薬剤が開発されて効果を上げています。

 血小板が激しく減って出血があったり、血小板の減った患者さんが急に手術が必要になったりした場合には、一時的に免疫グロブリン製剤を大量に投与して、血小板表面の自己抗体がどん食細胞に結合しないようにして緊急対応することもあります。

 なぜ、自分の血小板に対して抗体を作ってしまうようになるのかまだまだ分からないことが多いのですが、これまでの治療で効果が十分でなかった患者さんにもさらに新たな治療の開発も進んできています。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 たけうち・まこと 広島大学付属福山高、岡山大学医学部卒。岡山大学病院、国立病院機構南岡山医療センターなどを経て、2015年より現職。専門は白血病など血液腫瘍。日本血液学会専門医・指導医・代議員。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医・指導医。日本内科学会総合内科専門医。がん治療認定医機構がん治療認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年10月03日 更新)

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