文字 

(31)岡山県における糖尿病医療の新展開 岡山大学病院新医療研究開発センター 四方賢一教授

四方賢一教授

【図1】

【図2】

【図3】

かかりつけ医中心に連携体制強化

 疑いのある人を含めると全国で2千万人以上が罹患(りかん)していると推定される糖尿病。放っておくと腎臓障害で人工透析が必要となったり、重篤な視覚障害などを引き起こす恐れがある。そうした合併症を早期発見・治療し、岡山県民の健康寿命を延ばそうと、県は医療関係者によるネットワークを構築し、糖尿病診療のレベルアップを目指す事業に取り組んでいる。いわば、岡山における糖尿病医療の新展開で、そのカギはかかりつけ医機能の強化と地域の医療従事者養成。事業の中心人物の一人で、岡山大学病院新医療研究開発センターの四方賢一教授(岡山大学病院糖尿病センター副センター長、岡山県糖尿病対策専門会議会長)に現状を聞いた。

 ―岡山県の糖尿病患者の現状と医療体制はいかがでしょうか。

 四方 県内の糖尿病の患者数は正確には把握できていませんが、全国の傾向を当てはめれば成人の10人に1人となります。あくまで推計値ですが、県内の成人人口は約160万人ですので、患者は16万人、予備軍を含めれば30~40万人でしょう。患者は人口の多い県南に集中しているのは当然ですが、有病率は高齢化の進んでいる県北で高くなっています。それに対して県内の専門医は約120人で、特に県北に少ないのが現状です。

 ―対策はどうなっていますか。

 四方 岡山県は、糖尿病医療に関わる医師およびメディカルスタッフの資質向上と県民への普及・啓発を推進する目的で、2012年度より糖尿病医療連携推進事業(以下、当事業)を始めました。現在までに約700の医療機関が参加する糖尿病医療連携ネットワーク(おかやまDMネット)を構築しています。特に私たちが力を入れているのは、医療機関同士のネットワーク機能の強化に加え、メディカルスタッフを対象としたスキルアップ・プログラムを通した人的ネットワークと医療情報ネットワークを構築することです。これにより、県南と比較して医療資源が不足している県北の医療レベルの維持に寄与できると考えています。

 ―ネットワークの内容を具体的に教えてください。

 四方 「おかやまDMネット」では、糖尿病診療に際して(1)総合管理を行う医療機関(糖尿病かかりつけ医)(2)専門治療を行う医療機関(3)慢性合併症の治療を行う医療機関(4)急性増悪時の治療を行う医療機関―の四つに分けて、糖尿病医療の機能分化と役割分担を図っています=図1。当事業が開催した総合管理医の認定・更新研修会を受講して岡山県と岡山県医師会から認定された総合管理医療機関(糖尿病かかりつけ医)は300施設を超え、地域での糖尿病診療において中心的な役割を果たしています。このような糖尿病かかりつけ医を中心とした医療連携体制を県民の皆さまに広く知っていただくために、今回、ポスター=図2=を作って認定医療機関に送付しております。

 ―ネットワークはさらに広がっているようですが。

 四方 14年度からは、糖尿病診療に精通したメディカルスタッフを養成する目的で「おかやま糖尿病サポーター」制度を発足させ、3年間で約1400人を認定してきました。対象職種は看護師、准看護師、薬剤師、臨床検査技師、管理栄養士、栄養士、理学療法士、作業療法士です。今回、県民の皆さまに広く知っていただくために、この「おかやま糖尿病サポーター」のポスターも作成しました=図3。今後、県から認定された糖尿病サポーターが県民の皆さまの近くで、地域に根ざした糖尿病医療を強力にサポートすることが期待されています。こうした糖尿病かかりつけ医の機能強化とメディカルスタッフの養成を通して、地域医療ネットワークを活性化させることにより地域の糖尿病医療のレベルアップを目指してまいりました。

 ―今後の課題はなんでしょう。

 四方 四つあります。総合管理医と糖尿病サポーターは着実に増え、事業は順調に進んでいると思いますが、総合管理医と糖尿病サポーター、そして専門施設がさらに効率よく連携できる体制を作っていかなければなりません。県北など専門施設の少ない場所で医療連携を発展させたいと考えています。もう一つは医科歯科連携。歯周病は糖尿病の合併症ですが、嚥下(えんげ)機能と栄養状態を維持する観点からも、歯科と医科の連携をもっと進めることが大切です。三つ目は介護への関与。要介護の高齢者は糖尿病の有病率が高いのですが、介護施設ではインスリン治療が必要な患者さんたちに対応し切れていない場合があります。施設の看護師さんや訪問看護をする看護師さんたちが糖尿病に精通し、近くのかかりつけ医の先生たちとうまく連携して介護を必要とする患者さんたちの糖尿病治療をサポートしてもらえればと思っています。最後は、患者のうち半分ほどの人が医療機関を受診していないので、検診の受診率と医療機関の受療率の向上です。これは啓発活動を地道に続けていくしかありません。

 以上のような取り組みを通して、当事業では岡山県全体の糖尿病診療レベルを向上させ、今後も県民の皆さまに安心して糖尿病医療を受けていただけるようなシステムづくりを行ってまいります。

     ◇

 おかやまDMネットURL https://www.ouhp-dmcenter.jp/project/dm/

 しかた・けんいち 京都・洛星高、岡山大医学部卒、岡山大大学院医学研究科修了。米・ハーバード大ジョスリン糖尿病センター客員准教授、岡山大大学院腎・免疫・内分泌代謝内科学准教授、岡山大学病院腎臓・糖尿病・内分泌内科診療科長などを経て、2010年から岡山大学病院新医療研究開発センター教授。12年より同院糖尿病センター副センター長。糖尿病学会研修指導医。糖尿病学会評議員、糖尿病学会中国四国支部幹事、岡山県糖尿病協会会長、糖尿病合併症学会理事、岡山県糖尿病対策専門会議会長など務める。58歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年10月17日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ