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子宮内膜症についてのお話 倉敷成人病センター産婦人科主任部長 太田啓明

太田啓明産婦人科主任部長

 生理痛は病気の症状ってご存じですか?

 「生理痛は病気ではない」。これは私たち産婦人科医が患者さんに言ってきたことです。けれどもこの10年くらいで、腹腔(ふくくう)鏡手術が進歩し、お腹(なか)の中をカメラで覗(のぞ)けるようになって、今さらですが「生理痛」が大切な病気の症状だということがわかってきました。

 痛みは体のサインです。特に子宮・卵巣はお腹の中にありますので、普段はどうなっているのかわかりません。痛みを出したときは、異変のサインと考えてあげてください。

 生理痛は現在「子宮内膜症」という病気の症状です。子宮内膜症は10人に1人、決して珍しい病気ではありません。そして発症は10代、まだ病院で検査を受けるには早い年から、月経の発来とともに発症・進行していきます。この病気は、卵巣チョコレート嚢(のう)胞(癌=がん=化の恐れも)▽腹膜病変(卵管周囲で癒着が起きれば不妊症の恐れ)▽深部子宮内膜症(重症化すれば排便困難にも)▽子宮腺筋症(重症化すれば子宮摘出の可能性も)に分類されます。特徴は「進行性・慢性疾患」「不妊」「癌化」の3つです。

 まず「進行性・慢性疾患」。生理の度に徐々に悪化していきますが、慢性ですから放っておいても決して治ることがありません。10代からお腹の中にできて、月経の度に痛みを出しながら、ゆっくりと進行していきます。ただ子宮がん検診で見つけることはできません。この病気の本体は、ほくろくらいの大きさで、子宮ではなく、腸や子宮・卵巣の表面の腹膜にあります。腹腔鏡で直接覗かない限り、超音波検査でも見つけることはできません。そして、進行すると腸や卵巣、卵管、尿管といったお腹の中の大切な臓器をくっつけていき、機能障害を起こすのです。

 臓器がくっついてしまう「癒着」はMRI検査でもなかなか見つからないのですが、これは癌と同じように怖いことで、腸を切除したり、腎臓を全くダメにしたり、もう一つの特徴である「不妊」を引き起こしたりします。ひどくなると卵巣が腫れてきたり、子宮が変形、肥大してきてMRI検査でもわかるようになります。子宮内膜症が重症化し、ホルモン療法で痛みが取れない場合や癌化のリスクが考えられる場合には手術療法が必要になります。

 子宮内膜症への手術は腹腔鏡手術が行われています。腹腔鏡手術は傷が小さく早期の社会復帰が可能なだけではなく、手術自体による癒着も少なく将来の妊娠に対して有利です。また開腹手術に比べ、拡大してみることができ、子宮内膜症病変をよりきれいにとることが可能です。当院では昨年腹腔鏡手術を1300件行っていますが、子宮内膜症に対する手術は約4分の1を占め、いかに子宮内膜症が現在増えているかがおわかりになると思います。

 ここで重要なのは残念ながら子宮内膜症は手術だけでは完治しません、術後もホルモン療法を継続することにより再発を防ぐことができます。再発による再手術は卵巣機能の低下や周辺臓器損傷のリスクが高まります。そこで術後も妊娠を望む時まで、または閉経期までしっかりホルモン療法を行うことが大切です。

 それでは子宮内膜症自体にならないようにするにはどうすればよいのでしょうか?。まず10代の「生理痛」を放っておかないことが肝心です。若い時から月経痛を認める場合には月経困難症適応の低用量ピルを内服することが、子宮内膜症の予防につながることがわかっています。残念ながら漢方薬や鎮痛剤には痛みを和らげる作用はあっても、子宮内膜症の発症を予防したり、進行を抑制する効果はありません。以前と比較して、ホルモン剤は超低用量化により、漢方薬より優しい薬になっています。

 月経痛を認めても、そのまま我慢したり、痛み止めを使用し、婦人科を受診せず放置してしまう女性が日本では非常に多いと報告があります。また月経痛がある10代の女性の40~45%にすでに子宮内膜症を認めるという報告もあり、若い時から月経痛を認める場合には月経困難症適応の低用量ピルを内服することが子宮内膜症の予防につながります。

 さらには月経痛改善により学業や仕事の能率がアップし、将来の不妊症や癌化のリスクを減らすことができます。ぜひ、月経痛を認めるときは婦人科を受診してください。

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 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 おおた・よしあき 神奈川・桐蔭学園高校、日本大学医学部、日本大学大学院発生生殖学卒業。医学博士。2006年より倉敷成人病センター勤務。16年より現職。日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。日本産科婦人科内視鏡学会評議員、日本産科婦人科内視鏡学会教育担当代表幹事、日本産科婦人科技術講習会講師。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年10月17日 更新)

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