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(2)高齢者の治療と目標 倉敷スイートホスピタル院長 松木道裕

松木道裕院長

 超高齢者社会を迎え、高齢糖尿病患者は増加し続けています。高齢の糖尿病患者は心身機能の個人差が著しく、糖尿病が発症してからの期間、日常生活における身体の機能、認知症の程度、合併症の有無などを考慮して、血糖コントロールの目標を決めていく必要があります。さらに重症低血糖を起こす可能性がある治療を行う場合には、コントロールを緩やかにし、より安全な治療目標を設定します。

(1)血糖コントロール目標

 今年5月に日本糖尿病学会と日本老年医学会が合同で「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を示しました=。高齢の糖尿病患者の特徴・健康状態をカテゴリーIからIIIの3段階に認知機能と身体機能(日常生活動作・ADL)を評価して分類します。認知機能は正常から中等度以上の3段階に、ADLは基本的ADL(着衣、移動、入浴、トイレなど)、手段的ADL(買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)に分けて考えます。

 カテゴリーIは認知機能、身体機能とも問題のない高齢者、カテゴリーIIは軽度の認知症または手段的ADLが低下している状態、カテゴリーIIIは中等度以上の認知症または基本的ADLまで低下している高齢者であります。さらにいくつかの併存疾患(脳卒中、心筋梗塞、悪性腫瘍など)や機能障害(寝たきり、心不全、腎不全、骨折後の後遺症、脳卒中後遺症など)がある場合には認知機能やADLの低下が軽度であってもカテゴリーIIIに分類されます。

 これに加え、重症低血糖が起こりうるインスリン、スルホニル尿素薬(SU薬)、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)を使っている場合、緩やかなコントロール目標となっています。また、カテゴリーIIIに分類され、重篤な併存疾患があって、介護のサポートが乏しい場合などではHbA1c8・5%未満を目標とします。

(2)薬物療法における注意点

 高齢者において薬物療法を行うときに注意する点がいくつかあります。1つは高齢者では腎臓や肝臓の予備能の低下によって薬剤の副作用が出現しやすくなる点です。高齢者では腎機能の低下をみることがあります。腎機能低下時に、内服することのできない薬や量の調節が必要な薬剤があります。高度の腎機能低下(糸球体濾過=ろか=率・eGFRが30ミリリットル/分未満)がある場合、SU薬(アマリールやグリミクロンなど)、ビグアナイド薬(メトホルミンなど)、チアゾリジン薬(アクトス)は内服できません。

 また、SGLT2阻害薬は高度の腎機能低下があると服薬しても効果が得られません。一方、DPP―4阻害薬は安全に使える薬であり、腎機能低下があっても十分な効果が得られます。に内服薬の主な注意点を上げています。SU薬では食事量が減ったときや運動量が多くなったとき、低血糖には十分な注意が必要です。ビグアナイド薬による乳酸アシドーシスはシックデイ(食事摂取ができなくなったときや下痢が続くときなど)に脱水が高度になった場合に起こってきます。チアゾリジン薬では浮腫や心不全の出現、α―グルコシダーゼ阻害薬やDPP―4阻害薬では腸閉塞、SGLT2阻害薬では脱水や尿路・性器などの副作用がみられ、注意が必要です。

 もう1つ薬物療法を行うにあたり、注意する点は薬の飲み忘れや飲み間違いなどです。高齢者糖尿病では併発疾患を持つことが多く、内服する薬剤数は増えてきます。できる限り内服薬の服薬時間を集約し、内服する時間ごとに薬剤を1包化することで、飲み忘れなどの防止につながります。また、服薬カレンダーや薬ケースなどの利用は実践的で効果的な方法であります。

 高齢糖尿病患者においては病状を十分考慮した上で治療目標を決め、患者本人や家族の意向を大切にしながら、治療やケアが継続できる方法を探していくことが必要であります。

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 倉敷スイートホスピタル(086―463―7111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年10月17日 更新)

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