文字 

高額治療薬、劇的効果も医療費膨張 岡山の医師ら効率的な使用法研究

オプジーボを点滴で使うための準備をする薬剤師=倉敷中央病院

 がんの治療に劇的な効果もある新薬「オプジーボ」の普及が進んでいる。ただ、患者1人に年間約3500万円と多大な費用がかかる。近年、高額治療薬が相次いで登場して医療保険制度の破綻が懸念されており、岡山県内の医師らにも戸惑いが広がっている。医療費抑制を目指し、一部の医療機関は効果的な使用法を探る研究に乗り出した。

 ■1カ月300万円

 「一時は死を覚悟していたが、腫瘍がどんどん小さくなり、今では復職も考えている」

 肺がん患者の2~3割に効果があるとされるオプジーボ。余命は長くても2年と宣告されていた女性(55)=笠岡市=は恩恵を受けた一人だ。「ただ、薬代が高いと聞いている。孫の世代につけを残すことにならないか」と気にかける。

 オプジーボは免疫を活用した日本発の新薬で、点滴で投与する。抗がん剤の効果がなかった患者に劇的に効くことがある一方、重い副作用による死亡例もある。ひと月の薬代は1人当たり約300万円かかるが、高額療養費制度により自己負担は平均8万円ほどで済む。差額は国民の保険料や税金で賄われる。

 ■25%値下げ検討

 「誰にでも無条件に使うのが良いのかと悩むこともある」。倉敷中央病院の吉岡弘鎮呼吸器内科部長は打ち明ける。

 岡山済生会総合病院の川井治之診療部長は「医者は医療費を気にかけず病気を治すことを考えるが、この薬だけは特別だ。医療保険財政を圧迫することを患者に説明した上で投与している」と言う。

 近年、抗がん剤の一種である分子標的薬、高脂血症やC型肝炎に対する高額な治療薬が相次いで登場し、医療費の膨張に拍車を掛けている。2015年度の医療費(概算)は、薬の購入などの調剤費が9・4%も伸び、41兆4627億円(前年度比3・8%増)と過去最高を更新した。

 オプジーボは15年末に患者が数万人いる肺がんへの使用が認められたため、16年度の医療費はさらに膨らむことが予想される。危機感を強めた厚生労働省は、薬価の改定時期を早めて来春に25%以上の大幅値下げを検討している。

 ■300人の特徴分析

 より効率的な治療に向け、オプジーボがどういう人に効くか、治療を中断した場合にどれほどの期間、効果が持続するかといった解明も必要だ。

 倉敷中央病院と岡山赤十字病院は全国30余りの医療機関と連携し、全国300人の患者の治療経過を2年間追い、効果があった人の特徴を分析する。岡山赤十字病院の別所昭宏呼吸器内科部長は「薬剤費膨張に歯止めを掛けるためにも意義がある。成果を出したい」と意気込む。

 倉敷中央病院、岡山大病院は国立がん研究センターなどと共同で、オプジーボが有効だった患者に対し、治療の“やめどき”を調べる研究を早ければ来年度から始める。岡山大病院の田端雅弘腫瘍センター長は「研究の結果が出るにはまだまだ時間がかかる。まずは薬価を大幅に下げてほしい」と話している。

 ◇

 オプジーボは14年9月に希少な皮膚がんに保険適用された後、15年12月に肺がん、今年8月に腎臓がんに適用された。薬価は100ミリグラム当たり米国約30万円、ドイツ約20万円、英国約14万円などで、日本が73万円と突出して高い。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年11月03日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ