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(3)SGLT2阻害薬 倉敷スイートホスピタル内科医 江尻純子

SGLT2阻害薬の作用機序

病態に合わせた経口血糖降下薬の選択

江尻純子内科医

 2012年における日本人の糖尿病患者数は約950万人に上り、今後も増加すると予測されています。糖尿病治療の目的は、糖尿病細小血管合併症や動脈硬化性疾患の発症、進展を阻止し、健康人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持、寿命の確保を目指すことです。2013年に日本糖尿病学会は、合併症の予防のための血糖の管理目標値をHbA1c(NGSP値)として7・0%未満と掲げています。

 糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)の2013年度の調査結果によると、2型糖尿病患者の全体の血糖コントロールは改善し、HbA1c平均値は6・96%と低下傾向になっています。一方、平均BMIは25・0kg/m2と増加傾向にあります。これは持効型インスリンと経口血糖降下薬の併用療法(BOT)が普及したことや、2009年に発売されたインクレチン関連薬、特にDPP―4阻害薬の発売が大きな影響を与えたことが考えられます。現在では、2型糖尿病患者の3分の2が経口薬を併用しており、DPP―4阻害薬は60~70%の患者に使われています。現在国内で使用できる経口血糖降下薬のうち、最も新しい薬が2014年に発売されたSGLT2阻害薬です。

作用特性と臨床的特徴

 SGLT2阻害薬は近位尿細管でSGLT2によるブドウ糖の再吸収を抑制することで、尿糖排泄(はいせつ)の閾値(いきち)を低下させ、尿糖の排泄を促進(50―100g/日)し、血糖低下作用を発揮します。尿糖排泄が亢進(こうしん)すると、膵臓(すいぞう)からのインスリン分泌が抑制され、グルカゴン分泌が促進することにより、摂食後も内因性の糖産生の抑制は十分起こらず、肝臓が生体にグルコースを供給し続けます。その結果、主に脂肪組織が分解し、体重の減少が期待されています。

 血糖低下作用はインスリンに依存しない作用機序なので、単独使用の場合は低血糖になる可能性も低いです。しかし他の薬剤と併用している場合、特にスルホニル尿素(SU)薬やインスリン製剤と併用している場合は、低血糖を起こす可能性があるため、投与量をあらかじめ減量してからSGLT2阻害薬を併用していく必要があります。

 単剤投与あるいは併用療法いずれにおいても、治療後にHbA1cを0・5~1・0%改善し、半年の経過後で2~3kg程度の体重低下が得られると報告されています。

 最近、心血管疾患を有する2型糖尿病患者を対象に、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンを標準治療に上乗せしたEMPA―REG OUTCOME試験が発表されました。心血管死のリスク低下と腎疾患の新規発症または悪化のリスクを低下させたと報告されています。このことからも、SGLT2阻害薬の臓器保護作用が期待されています。

使用上の注意点と治療対象

 腎機能低下患者では糸球体濾過(ろか)率が低下しているため、効果が減弱し、よい適応ではありません。また腎不全と透析例には使用できません。妊娠時には使用できません。

 尿路感染症・性器感染症(とくに女性)の発現に注意する必要があります。薬の尿中ブドウ糖排泄促進作用により浸透圧利尿作用が働き、頻尿・多尿がみられることがあります。体液量の減少をきたし脱水症状を起こすおそれがあるため、適度な水分補給を行うよう主治医から指導されます。喝中枢機能の低下しやすい高齢者には、特に注意が必要となります。また感染症などを発症しているシックデイのときには、服用を中止する必要があります。

 SGLT2阻害薬とは、降圧作用や心血管イベントの低下、心不全悪化の予防効果、尿酸や中性脂肪の低下、善玉コレステロールの増加などの付加作用があります。心血管疾患の発症や再発予防が期待されていることから、高血圧、高尿酸血症、脂肪肝、脂質異常症などの合併がある2型糖尿病患者さんに適した薬剤と言われています。

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 倉敷スイートホスピタル(086―463―7111)

 えじり・すみこ 岡山朝日高校、金沢医科大学医学部卒。川崎医科大学付属病院、重井医学研究所付属病院を経て、2012年から現職。日本内科学会認定医、日本糖尿病学会糖尿病専門医、認定産業医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年11月07日 更新)

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