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(5)肺炎を予防する~二つの肺炎球菌ワクチン 岡山赤十字病院呼吸器内科副部長 佐久川亮

佐久川亮呼吸器内科副部長

 自己免疫疾患は免疫の異常により起こります。例えば関節リウマチという自己免疫疾患を持っているだけで、入院を要するような重症感染症の危険性は健康な人と比べて約2倍に増加することが知られています。さらに、治療のために免疫抑制剤やステロイド剤を使用するとその危険性は2倍から10倍になることも知られています。感染症の中でも特に頻度が高く重要な疾患は呼吸器感染症、すなわち肺炎です。したがって自己免疫疾患を有する人、あるいは自己免疫疾患に対して免疫抑制剤やステロイド剤の治療を受けている人は肺炎にかからないように日頃から十分注意する必要があります。

 しかしながら、生命を脅かすような重症肺炎は何も自己免疫疾患を有する人にのみ生じるわけではありません。65歳以上の高齢者である、というだけでも重症肺炎にかかる危険性は高くなるのです。ここでは主に成人、特に高齢者に対する肺炎の発症あるいは重症化を予防することを目的とした肺炎球菌ワクチンについて説明したいと思います。

 肺炎を引き起こす微生物にはさまざまなものがありますが、その中で最も頻度の高いものが「肺炎球菌」という名の細菌です。65歳以上の市中肺炎入院患者のうち、肺炎球菌による肺炎は約30%を占めると報告されています。多くの小児は鼻や喉に肺炎球菌を保菌しており、中耳炎、副鼻腔(ふくびくう)炎や肺炎を引き起こす場合があります。咳(せき)やくしゃみなどのしぶきにより感染が拡大する(飛まつ感染)と考えられていますが、感染したとしても必ず発病するわけではありません。

 発病する危険性が高いのが、5歳未満の乳幼児や65歳以上の高齢者です。軽症の肺炎で済むことも多いのですが、特に2歳未満の乳幼児、高齢者や免疫力が低下した人の場合、菌が血中に入り菌血症、敗血症や髄膜炎を引き起こし、手を尽くしても救命できないような重篤な状態に陥ることすらあります。このように髄膜炎や敗血症、菌血症を伴う肺炎を合わせて侵襲性肺炎球菌感染症と呼びます=。つまり「肺炎球菌」による感染症は、高齢者あるいは免疫力が低下した人にとって、頻度が高く、かつ重篤化する可能性があるという点で重要な疾患であると考えられています。

 肺炎球菌による肺炎あるいは侵襲性肺炎球菌感染症を予防するために2種類のワクチンの接種が推奨されています。一つは「23価肺炎球菌多糖体ワクチン」、もう一つは「13価肺炎球菌結合型ワクチン」と呼ばれているものです。前者の利点としては血清型(肺炎球菌のタイプ)のカバー率が広いこと、対象となる年度では公費助成が受けられることなどがあり、後者の利点としては接種した後の免疫記憶が長期に維持されること、侵襲性肺炎球菌感染症のみならず菌血症を伴わない肺炎球菌性肺炎の予防効果も期待できることなどが挙げられます。

 副作用としてはいずれのワクチンも注射した部位の痛み、赤み、腫れなどが一時的に生じることはありますが、重い副作用はまれであると報告されています。65歳以上の高齢者においては、それぞれのワクチンの利点を生かして両方のワクチンを適切な時期に接種することが日本呼吸器学会および日本感染症学会より推奨されています。2種類のワクチンをどのような時期に、どのような順番、どのような間隔で接種すべきかについては対象者の年齢、病状、過去のワクチン接種歴などによって変わってくるので医療機関にご相談ください。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 さくがわ・まこと 愛媛・愛光高校、鹿児島大学医学部卒。岡山大学病院、香川労災病院、岡山県健康づくり財団付属病院などを経て2007年より岡山赤十字病院に赴任。15年より現職。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年11月07日 更新)

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