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子宮体がんについてのお話 倉敷成人病センター院長 安藤正明

子宮体がんのしくみ

子宮体がんの腹腔鏡下手術

安藤正明院長

 子宮体がんは、妊娠時に胎児を育てる部分である子宮体部にできるがんです。子宮体部の内側の子宮内膜という組織から発生します。多くは、主に卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンの継続的な刺激が原因で子宮内膜が厚くなり、子宮内膜増殖症を起こし、その一部ががん化すると考えられています。

 もともと日本では子宮体がんは非常に少数でしたが、近年、生活スタイルの欧米化で肥満傾向が高まったり、晩婚化で出産経験が減ったりして、患者さんが急増していると考えられています。2008年に子宮体がんの発症数は子宮頸(けい)がんを追い越し、今後も増加が懸念されています。

 子宮体がんの発症は40代から増え始め、閉経後の50~60代をピークに、いくつになっても発症する可能性があります。

 子宮体がんが増えているもう一つの大きな原因は、日本女性の平均寿命が長くなったことが挙げられます。子宮体がんは、ごく初期の段階から症状が現れる場合がほとんどです。代表的な症状は不正出血で、ほかには茶色や黄色のおりもの、おなかの痛み・張りなどの症状もあります。

 閉経後の不正出血はすぐに気づきますが、更年期のまだ完全に閉経していない時期の出血は、自分では子宮体がんが原因か見極めがつかないので注意が必要です。

 子宮体がんの検査としては、子宮内膜の細胞診がまずおこなわれますが、閉経後の女性では、からだに負担のない超音波で子宮内膜の厚さを調べ、異常が疑われれば細胞診を行うこともあります。子宮体がんと診断されると、MRI(磁気共鳴断層撮影)やCT(コンピュータ断層撮影)などでがんの状態を調べます。

 現在、子宮体がんの治療は外科手術が最も一般的な方法で、開腹手術と腹腔(ふくくう)鏡下手術があります。

 開腹手術の場合、子宮周囲のリンパ節は腎臓の動脈付近に達するほど広がっているため、リンパ節郭清を行うと下腹部からみぞおちまでの大きな切開が必要となり、術後の痛み、回復の遅れ、癒着による腸閉塞のリスクを伴うなど体への負担も大きくなります。

 一方、腹腔鏡下手術は後腹膜(腹側部からの)アプローチにより容易に体腔深部を観察でき、また映像を拡大して手術できるためリンパ節郭清も開腹手術を上回る精度で行えるため、痛みの大幅な軽減、歩行・食事開始までの期間の短縮、出血量の軽減が可能になります。この子宮体がんに対して行う「腹腔鏡下子宮体がん根治術」は14年4月より初期がんに対して健康保険が適用されています。

 当院は国内では最も早く1998年から腹腔鏡下子宮体がんの手術を開始しました。治療成績は極めて良好で、大きな手術でも術後の回復が早く、ほとんどの患者さんが翌日歩行・食事が可能となります。

 低侵襲手術として、更に今後は、ロボット支援下腹腔鏡手術も低侵襲と根治性を実現するために注目されています。当院の年間のロボット手術件数は国内トップで西日本で唯一の指定研修施設となっております。

 その他の治療法では、高リスクで再発が想定された患者や、子宮の外に病巣が広がっている場合は手術をしても再発する可能性が高いので術後に追加で抗がん剤を使う化学療法をおこなうと、再発の危険性を減らす効果が期待できます。また、がんが全身に広がっている場合も、手術が困難なため化学療法のみで治療する場合があります。

 また、39歳以下で子宮内膜にとどまった子宮体がんで、妊娠を強く希望する場合に、6~12カ月間プロゲステロン製剤という黄体ホルモン剤を使うホルモン治療法もあります。実施するための条件は限られていて再発や副作用のリスクが高い治療法です。

 早期に発見して治療すれば、子宮体がんは治すことができる病気です。いつもの月経とは違う出血を認めるときは婦人科を受診してください。

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 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 あんどう・まさあき 岡山朝日高校、自治医科大学医学部卒業。1986年より倉敷成人病センター勤務。2015年より現職。日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年11月07日 更新)

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