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(5)がんとの関係 倉敷スイートホスピタル内科医 江尻純子

江尻純子内科医

日本の動向

 日本人の死亡原因の1位は「がん(悪性新生物)」です。国立がん研究センターの発表によると、2015年のがん罹患(りかん)数(新たにがんと診断される数)は98万例で、死亡数は37万人と言われています。部位別罹患数は、大腸がん、前立腺がんの罹患が増加し、男性は前立腺がんが最多となっています。これは、がん登録の精度向上と腫瘍マーカーであるPSA検診の普及が要因と考えられます。

 国立がん研究センターが実施した研究の解析結果によると、対象者約33万5千例のうち、がん罹患者数は約3万3千例で、糖尿病患者における全がん罹患リスクは非糖尿病患者と比較して、1・2倍(男性1・19倍、女性1・19倍)と高くなっています。

2型糖尿病と罹患リスク

 わが国の疫学データでは、2型糖尿病の人は非糖尿病の人と比較して、膵臓(すいぞう)がん約1・8倍、肝臓がん2~2・5倍、大腸がん約1・3倍とがんになるリスクは有意に高いと報告されています。一方で、前立腺がんリスクは減少すると考えられています。

 2型糖尿病とがんに共通する危険因子は、加齢、男性、肥満、低身体活動量、不適切な食事、過剰飲酒や喫煙が挙げられ、肥満は2型糖尿病の最も重要な危険因子の1つであり、国際癌研究機関(IARC)の報告では肥満は食道(腺がん)、大腸、膵臓、乳房(閉経後)、子宮内膜、腎臓のがんリスクを上げることは確実と判定されています。

 自己管理が可能な因子は、肥満体型、身体活動量、食事、過剰飲酒や喫煙であり、糖尿病患者の食事療法、運動療法、禁煙、節酒はがんリスク減少につながる可能性があります。コーヒー摂取は糖尿病とがんに共通の予防因子となりますが、推奨するまでには至っていません。

両方の罹患リスクを 減少させるために

 (1)適正体重を維持する。

 (2)赤肉・加工肉の摂取過剰を控え、野菜・果物・全粒粉や食物繊維の多い食事を心がける。

 (3)ウオーキングなどの運動療法を週に5日以上行う。

 (4)禁煙をする。

 (5)過剰飲酒をしない。

 (6)性別・年齢に応じて、がんのスクリーニング検査を受ける。

罹患リスク上昇のメカニズム

 糖尿病によるがん発生促進のメカニズムとしては、インスリン抵抗性とそれに伴う高インスリン血症、高血糖、慢性炎症などが想定されています。

 (1)インスリン抵抗性と高インスリン血症

 膵臓から分泌されるインスリンの作用が不足すると、それを補うために高インスリン血症やIGF―I(インスリン様成長因子I)の増加が生じ、これが肝臓、膵臓などの部位における腫瘍細胞の増殖を刺激して、がん化に関与すると推察されています。

 (2)高血糖

 高血糖はミトコンドリアにおけるグルコース酸化の過負荷などを介して、酸化ストレスを亢進(こうしん)させ、がん増大を引き起こす可能性が考えられています。

 (3)慢性炎症とアディポカイン

 肥満・体脂肪の増加が遊離脂肪酸やTNFαの上昇をもたらし、脂肪性サイトカインの一種であるレプチンの上昇、およびアディポネクチンの低下を引き起こす結果、骨格筋や肝臓でのインスリン抵抗性と高インスリン血症が引き起こされます。

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 倉敷スイートホスピタル(086―463―7111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年12月07日 更新)

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