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(7)関節リウマチと新治療・克服を助けるスナイパー 岡山赤十字病院自己免疫疾患センター長・膠原病リウマチ内科部長 小山芳伸

図1

図2

小山芳伸自己免疫疾患センター長・膠原病リウマチ内科部長

 今回は自己免疫疾患のうち、最もなじみの深い病気、「関節リウマチ」を取り上げたいと思います。本来体を守ってくれるはずの自衛隊(免疫系)が、自分自身の一部を敵と間違えて攻撃する病気が自己免疫疾患です。では、関節リウマチの場合、どこが攻撃されるのでしょう?

 そうです。体中の「関節」が攻撃目標です。関節が腫れ、最終的に破壊される病気です。例えば手指の関節では、骨の部分が徐々に削られ、最後は外から見ても指が曲がっているのがはっきり分かるまでになります。

 では、ここで免疫系から攻撃されるのは「骨」なのでしょうか? 実は違います。図1の左側は関節の仕組みを示しています。関節を包む関節包を内張りしている部分、ここに滑膜(かつまく)と言う組織があり、これが攻撃目標なのです。

 どうしてこのような攻撃が始まるのでしょうか? 多くの研究がありますが、さまざまな要因が重なって起こると考えられています。遺伝的な因子だけでなく、歯周病や喫煙などの環境因子も原因の一つとして注目されています。これらの要因が重なり、関節リウマチに関連する自己抗体(自分を攻撃するタンパク質)ができやすくなるのです。

 さて、関節リウマチでは膜が攻撃されているのに、骨はどうやって壊されていくのでしょう? 滑膜は免疫系から攻撃され、そこで戦争(炎症)が起こります。早期では滑膜が腫れぼったくなり、特に朝、関節のこわばりを感じるようになります。さらにひどくなると痛みや腫脹(しゅちょう)も起こってきます。しかし、すぐに骨が壊されるわけではありません。この状況が続くと、攻撃され続けていた滑膜が怒り狂って増殖を始め、ついにはまわりの骨を食べていくのです=図1右

 一度リウマチになったら、なかなか関節破壊を止めることが難しかった時代、多くの患者さんは、徐々に身の回りのことができなくなっていきました。破壊された関節を何とか使いやすくするため、外科的な手術療法が中心だった時期もあります。しかし、治療はここ20年ほどで急速に進歩し、破壊される前に止める方法がいくつか手に入ったのです。内科的な薬による治療です。1990年頃から抗リウマチ薬として免疫抑制剤が積極的に使われ始め、21世紀になって注射薬として生物学的製剤が登場、最近では内服で同等の効果を持つ合成分子標的薬も使えるようになりました。

 これらをイメージにしたものが図2です。

 まず、(1)従来型免疫抑制剤です。内服可能な薬で、免疫全体を抑え、炎症を止めます。薬価も比較的安く、これらの薬だけで十分にリウマチの勢いや関節破壊の進行を止めることができる場合も多くあります。

 しかし、不十分なケースでは、図2の(2)生物学的製剤や(3)合成分子標的薬のような新薬が必要になります。従来型のものが免疫全体を抑制するのに対し、これらの薬は免疫の仕組みの中でどこを標的としているかがはっきりしているところが大きく異なります。

 「生物学的製剤」が日本で使えるようになったのは2003年です。戦争を起こしている兵隊は、「戦え(炎症を起こせ)!」という指令を、伝令(炎症性サイトカイン)を使って伝達し、仲間を集めています。生物学的製剤の多くは伝令にくっついたり、届け先のポストにフタをしたり、ニセのポストをばらまいたりすることで指令が伝わらないようにします。兵隊を戦闘状態にするスイッチにくっついて、これが押されるのを防ぐ薬もあります。

 「合成分子標的薬」は2013年から使えるようになりました。これは同様に「戦え!」という指令を邪魔します。兵隊の中に入り込み、指令を中枢に伝える役目の分子にくっついて、ポストに指令が来ても、それに気づかないようにしてしまうのです。

 治療の進歩により、関節リウマチで外科手術が必要になる方は随分と減りました。しかし、良いことばかりではありません。これら新薬は薬価も高く、年間1人につき、およそ150~300万円程度かかります。もちろん保険はききますが、経済的な患者負担は小さくありません。

 このような新薬も、従来型ほどではありませんが、良い免疫にも影響を与えてしまいます。薬の使用で、肺炎など入院が必要な重症感染症のリスクは、約2倍になると言われています。免疫抑制剤中心の新しいリウマチ治療は、これら感染症にも対応できる専門医が行う必要があるのです。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年12月07日 更新)

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