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(4)うつ病と自殺予防 万成病院診療部長 阿部慶一

阿部慶一診療部長

 今回、うつと自殺(いかに防ぐか)、自殺のサイン―という題目で記事を依頼されました。自殺のサインといっても簡単ではありません。ネット上には、ご遺族の方が感じた自殺のサインについて書いてありましたが「人それぞれにさまざまで、ひと言でいうと『いつもと様子が違う』という特徴がありますが、その様子の変化が自殺に結びつくとは、なかなか思えないのが実情です」とあります。現実的には捉え難い面も大きいでしょう。

 しかし、基本的に「うつ病」のサインと自殺のサインはほぼ重なると考えていいと思います。

うつ病について

 うつ病は脳の病気で全身に症状が出ます。昔は、原因がはっきりしないことも多く、中年の頃と老年期に、責任が増えたり大事なものから離れたりと、心の負担が多い時期に発症する人が多いとされていました。しかし最近は、蓄積したストレスが引き金になってうつ病になり受診する青年が増えている印象です。

 最近の研究では、年齢や体質など関係なく、誰であろうと過剰なストレスを受けると脳細胞がバランスを崩し、うつ病の状態になるという結果が得られています。そしていったん、うつ病を発症したら、改善した後もその影響は長期間にわたって脳に残存するようなのです。昔は良くなったら抗うつ薬の内服を数カ月でやめてみるということがありましたが、最近は長く服用するように勧められています。薬を止めていいぐらいに回復するには、かなりの時間がかかるのです。

 予防には、脳細胞への負担が蓄積しないようにする必要があるでしょう。適度に休んで気晴らししたり、充分に睡眠をとり(日本人は世界一睡眠時間が短いということです。自殺の多さと関係があるかもしれません)、信頼できる人に相談し思いを吐き出してストレス解消することが、ストレス性のうつ病の予防策といえそうです。もちろん、ストレスの原因について対処する必要があるでしょうが、気持ちがしっかりしないと良い考えも出ないものです。

 しかし、うつ病になってしまったら、本人が実践することは不可能なのです。人は誰でも、不安で眠れなかったり悲しくて食欲がなかったりといった体験をしています。だからつい、うつ病をその延長線上で考えてしまう傾向がありますが、うつ病の人に健康な人のためのアドバイスは効きません。病気で本来の自分を失った状態なのに、健康な人のような対処ができるわけがないのです。必要なのは充分な休息と治療、病状を理解している人によるサポートです。

自殺のサイン

 厚生労働省は「職場における自殺の予防と対応」という文書を公開しています。この文書にある「自殺予防の十箇条」と、うつ病についての記載を引用します=。働く人以外にも応用できると思います。

 当てはまる項目があったから必ず自殺に至るとか、ないから自殺しないとはいえません。しかし、それまでなかったサインが複数みられるようなことがあったら、実行に至る危険があると考えてもいいでしょう。専門家による治療を受けられるようにしてください。当院でも外来受診や電話での相談を受け付けています。

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 万成病院(086―252―2261)

 あべ・けいいち 岡山大安寺高校、香川医科大学卒業後、精神科医として同大付属病院精神神経科に勤務。慈圭病院を経て研修期間終了後は、橋本病院(香川県三豊市)にて勤務。2008年春から万成病院に勤め、現在は診療部長。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年12月07日 更新)

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