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地域と共に歩む医療が大切 笠岡第一病院(笠岡市横島)橋詰博行院長

橋詰博行院長

瀬戸内の海に面して建つ笠岡第一病院。すぐ西隣にある介護老人保健施設と特別養護老人ホームなどが同居する「瀬戸ライフサポートセンター」と連携を図り、医療、介護、福祉サービスを一体的に提供。高齢化が進む中、地域の人々の生活をトータルにサポートしている

 ―病院の特徴を教えてください。

 橋詰 もともとは外科の病院でしたが、内科、小児科にも分野を広げ、現在は全28科あります。各科とも質の高い専門性を維持し、地域包括ケアシステムの核である急性期病院として、関連施設と連携しながら医療から介護まで切れ目のないサービスを提供しています。病床数は148床(一般94床、地域包括ケア54床)で、診療圏は笠岡、井原、浅口市、矢掛、里庄町の井笠圏域約15万人ですが、特殊な専門診療である手外科の分野では倉敷、福山市からも患者さんは来られます。一日の平均外来患者数は約500人です。

 ―高齢化、人口減少が進む中、岡山県南西部では例のない、介護老人保健施設(老健)と特別養護老人ホーム(特養)などが同じ建物内にある複合施設「瀬戸ライフサポートセンター」が2016年10月から全館運営を始めました。

 橋詰 笠岡市の高齢化率は35%。地域の方々に安心して生活していただくためには医療と介護が別々に機能するのではなく、両者の連携強化が欠かせないと判断しました。特養は生活の拠点として最期まで入所し続けることが可能な施設です。一方、老健は生活の場と病院の中間施設であり、病院などに入院していたことがある方で自宅での生活が困難となってしまった場合、一時的にリハビリ目的で入所する施設でもあります。

 それぞれ役割は異なりますが、同じ建物内に両方の施設があり、しかも渡り廊下で笠岡第一病院と繋(つな)がっています。これは患者さん、利用者の皆さんにとってはものすごくいいことだろうと考えています。しかも、サポートしている看護師やケアマネジャー、介護士、医療ソーシャルワーカーなどの専門職の人々も、一つ屋根の下で日常的に顔を合わせることになります。医師も身近にいるので、安心していただける医療、介護を提供できます。それが一番のメリットでしょう。

 ―2014年11月には重症患者向けの病棟と在宅とを結ぶ地域包括ケア病棟を開設されました。

 橋詰 亜急性期と回復期の診療機能を担う地域包括ケア病棟を開設すれば、急性期から在宅までのシームレスな医療を地域内で提供することが可能になります。急性心筋梗塞や脳卒中などの治療を受けた患者さんの受け皿となるポスト・アキュートの機能に加え、在宅や施設での療養生活の中で具合が悪くなった場合のサブ・アキュートのニーズも高いものがあります。地域包括ケア病棟は、この二つの機能に対応できる上、地域の医療機関との連携もより強化することができます。診療所からの紹介も増え、病床稼働率は80%を超えています。地域での生活復帰に向けた支援の役割はしっかり果たせていると思います。

 ただ、在宅医療はご家族にとって負担の大きいものです。老老介護や、介護のために仕事を辞めざるを得なくなるケースもあります。そのため病院も、何とかそうした状況にあるご家庭をサポートするような体制をつくっていきたいと考えています。ご家庭の希望、事情を分かった上でトータルな視点で対応していかなければならないと思います。

 ―社会の変化とともに患者さんの価値観も変わってきています。病気を治すことも大切ですが、生活を改善させる視点も求められるようになりました。

 橋詰 これだけの高齢社会になれば、病気を患っている状態は日常生活の一部になってしまっています。それぞれに生活があるわけですから、生活を大切にしないといけません。だから、ほんの一時期入院していただいて、できるだけ早く本来の場所に帰っていただくのが患者さんにとっては一番の幸せだろうと思っています。患者さんを中心に考え、地域のみんなで支え合っていく、その一部が病院であるという形に変わってきています。高度急性期の医療はもちろん重要ですが、それだけでは立ち行かない時代になっています。今、地域の皆さんが何を求めているのかというと、慢性期や回復期の治療でしょう。これは病院主体ではなく、地域主体の医療になります。いわば、生活の中での医療。笠岡第一病院ではそれを実現しようとしています。

 ―国内ではかつて例のないスピードで高齢化が進んでいます。2025年には65歳以上が3600万人、年間の死者は160万人とも推計されます。こうした現実を踏まえ、これからの地域医療はどうあるべきだと考えられていますか。

 橋詰 われわれは患者さんのニーズに応えることを最優先にしています。井笠地域のニーズに応えるには、医療と介護の一体化と、日常に頻繁に起こる高齢者の救急のニーズにいかに対応できるかというのが課題でしょう。それぞれが抱えている問題を専門職だけでなく患者さんやご家族とともに考えていく視点も必要です。効率的で効果的な地域包括ケアシステムを構築していくとともに、在宅から看取(みと)りまでを含めた、地域に溶け込んで地域と共に歩む医療が大切となります。地域に応えることを第一としながらも、専門性を生かして、地域医療・福祉に貢献し、地域の中核病院としての役割を果たしていきたいと考えています。

     ◇

 笠岡第一病院(0865―67―0211)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年01月16日 更新)

タグ: 笠岡第一病院

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