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運動器不安定症の予防法 できる範囲で運動を 岡山大病院・千田准教授「若い時から習慣付けて」

「運動器不安定症」には、片足立ちによるバランス訓練は効果的な運動療法になる

 老化や運動不足がもとで転倒・骨折リスクが高まる「運動器不安定症」が注目されている。関節や筋肉など運動器の働きが衰え、体のバランスを保ちにくくなったり、歩くこともおぼつかなくなる状態だ。重症化すれば要介護状態に至ることもあり、岡山大病院総合リハビリテーション部の千田益生准教授は「基本的な生活習慣を維持し、自分ができる範囲の運動を心がけて」と予防を呼びかけている。

 運動器不安定症は、保険診療が昨年四月から適用された新しい疾患概念。骨粗しょう症や関節リウマチなど運動機能低下をきたす疾患の既往症があるか現在も罹(り)患中で、要介護2以下に認定されたケースなどに診断される。

 頭痛や肩こりなども運動器障害の一つだが、最も怖いのは転倒・骨折による身体の損傷。大腿(だいたい)骨けい部骨折など一般的に手術が必要なけがの場合、術後の回復が思うように進まず寝たきりになることもある。

 「こうしたリスクを避けるには、普段から足の筋力やバランス能力を高めることが大切」と千田准教授。「リハビリを行えば一定の回復が見込めるが、運動器不安定症そのものを未然に防ぐことが先決」。ウオーキングやプール内の歩行のほか、ゆっくりと全身を動かす太極拳も有効な予防法という。

 転倒・骨折予防には、普段の日常生活も要注意だ。布団に足が引っかかったり、わずかな段差で転んで足や腕の骨を折るケースが意外に多い。骨粗しょう症がある高齢者の場合、物を持ち上げた際に脊椎(せきつい)圧迫骨折になりやすいという。

 一方、骨の成長が活発化する若い時からの心がけも重要。千田准教授は「十代から二十代までの間に栄養バランスのとれた食事をしっかり食べて適度な運動を続けていたかどうかが、後々の健康状態にも大きく影響する」と強調する。

 二〇〇六年の日本人の平均寿命は女性が八五・八歳で長寿世界一、男性が七九・〇歳で二位。この平均寿命から日常生活に支障が出るけがや病気の期間を引いたものを「健康寿命」といい、日本人は平均で寝たきりや要介護状態にある期間が六年以上あると考えられている。

 日本整形外科学会(東京)の統計によると、国内で大腿骨けい部骨折をした患者の一年後の死亡率は約10%。欧米と比べれば三分の一から二分の一の水準にとどまるというが、急速な高齢化に伴う患者数の増加は避けられない状況だ。

 こうした中、政府の有識者会議(座長・黒川清内閣特別顧問)が四月にまとめた今後十年の「新健康フロンティア戦略」には、骨・関節・脊椎の痛みによる身体機能低下の防止、運動器疾患対策の推進などが盛り込まれた。

 運動器不安定症の予防は、高齢者のQOL(生活の質)維持・向上だけでなく、増大が懸念される介護・医療費の動向も左右する“国民的課題”といえる。

 千田准教授は「いつまでも元気な状態を保つためには若い時から体を動かす習慣付けが不可欠。一人一人が運動器の持つ役割を認識するとともに、意識的に運動ができる環境づくりに社会全体で取り組む必要がある」としている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2007年10月02日 更新)

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