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脳卒中治療の最前線

川崎医科大学総合医療センターが開催した第2回開院記念市民公開講座。脳卒中治療の最前線について3人の医師らが講演。大勢の人々が熱心に聞いた=1月21日、川﨑祐宣記念ホール

小野成紀脳神経外科部長 

井上剛脳卒中科副部長 

小山淳司リハビリテーションセンター副主任・理学療法士 

 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)の第2回開院記念市民公開講座が1月21日、センター内の川﨑祐宣記念ホールで開かれた。同病院の小野成紀脳神経外科部長、井上剛脳卒中科副部長、小山淳司リハビリテーションセンター副主任の3人が、「脳卒中治療の最前線」をテーマに講演した。

岡山市中心部の脳神経センターとしての役割
脳神経外科部長 小野成紀


 当院はスタッフの充実に努めており、脳卒中専門医、脳血管治療専門医、脊椎・脊髄専門医、神経内視鏡や認知症、小児神経外科の専門医も在籍する岡山県でも数少ない病院の一つです。こうした特色を生かし、あらゆる脳神経疾患に精通した広く深い治療を行える施設として、各部門と連携しながら総合的に脳の疾患に対応していきたいと思っています。

 地域医療への貢献を考えたとき、まず大事なのは、最近多い脳卒中の治療でしょう。これは脳卒中科、リハビリの先生方とともに対応しています。次は脊椎・脊髄に関する疾患です。今、腰や首が痛い方が非常に増えています。もう一つは脳神経救急です。24時間365日対応します。

 脳卒中については、ストローク・ケア・ユニット(SCU)、つまり脳卒中に特化した集中治療室をつくりました。SCUを整備している施設は全国でも多くはありません。というのも、四六時中、脳卒中の専門医が当直していないといけないからで、これが大きい病院でもなかなかそろわないのが現状です。

 脊椎・脊髄に関しては、脊柱管狭窄(きょうさく)症といって、脊髄の中を通っている神経に、変形した骨が当たって腰や背中に痛みが出て歩けなくなる、手がしびれるということがあります。これには金属の棒で支えて、つぶれた骨を補強する手術があります。

 救急については、患者の受入数が急増しています。救急の患者さんを受けることは、市民の安全、脳神経の安全に貢献することだと思っていますので、これからもっと力を入れてやっていきたいと思います。

脳梗塞治療の最前線
脳卒中科副部長 井上剛


 脳卒中は日本人の死因の第4位で、患者さんは増え続けています。脳の病気は半分以上が寝たきりになるということが問題になっています。大まかに脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に分けられ、脳の血管が破れたり詰まったりすることで起きる病気です。

 症状は主に三つあります。一つは片方の手足の麻痺やしびれ、次は相手が何を言っているのか分からなくなったり、ろれつが回らなくなる言語障害、三番目は立てなくなったり歩けなくなる歩行障害で、突然起こります。

 最新の治療について説明します。まずは脳梗塞の血栓溶解療法を中心とする超急性期治療です。私たちの体の中で脳は非常にデリケートな部分なので、脳の血管が詰まると、すぐに脳は死んでしまいます。2005年にt―PAという薬を点滴することで、脳に詰まった血栓を溶かす治療が日本でも開始されました。ただし、脳梗塞が発症して4時間半以内に開始しなければ効果がありません。

 4時間半を超えると、脳細胞が死んでしまい、効果がないからです。薬の副作用で脳出血を起こし、さらに重症化する可能性もあります。ただし、検査に1時間ほどかかりますので、発症して3時間半以内に病院に到着してもらわなければ治療できないのです。

 次に血管内治療です。脳の血管の中に細い管(カテーテル)を通して、血栓を吸引したり、絡め取ったりする方法です。まずはt―PAの注射をして、血栓が溶けない場合、もしくは溶けにくいと思った場合、血管内治療を施します。

 もう一つはチーム医療です。急性期の脳卒中の患者さんを受け入れる専用病床である脳卒中ケアユニット(SCU)で、経験豊富な医師、看護師、リハビリテーションスタッフ、医療ソーシャルワーカー、薬剤師、管理栄養士らの専門チームによって発症早期から24時間体制で集中的に治療します。SCUでの治療はt―PA治療と同等の効果があるとされています。

脳卒中のリハビリテーション
リハビリテーションセンター副主任・理学療法士 小山淳司


 脳卒中は手足が動かなくなったり、しゃべれなくなったりと多種多様の症状を引き起こし、それが後遺症として残ってしまうことが多い病気です。現在、要介護者の約24%を脳卒中の方が占め、そのうち寝たきりの患者さんの約4割は脳卒中による後遺症とされています。これら身体症状の軽減をいかに図るかが大切で、リハビリは発症直後から開始するべき重要な治療の一つとされています。

 リハビリスタッフには理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)がいます。PTは立ったり歩いたりといった日常の基本動作、OTは食事やトイレなどの生活動作、STはコミュニケーションや嚥下(えんげ)を指導します。早期の社会復帰が目的です。

 一般的に脳卒中のリハビリは急性期、回復期、生活期に分けられ、一貫した流れで治療することが求められます。急性期のリハビリとしては発症直後からベッドサイドで開始して、廃用症候群の予防と運動学習で自分の身の回りのことができるようになることが目標です。廃用症候群はベッドで寝続けることで関節が硬くなったり力が弱くなったりすることです。

 脳卒中を発症して短期間で自宅へ戻れる方は3割ほどと少ないため、多くはリハビリを継続するために回復期リハビリテーション病院や病棟などで自宅復帰などを目指すことになるのですが、どうしても後遺症が残ってしまうことが多い病気です。そのため、自分のもっている能力の中でよりよく生活していこうとすると、本人以外の家族や周りの方の理解、協力がとても大切になってきます。脳卒中のこと、リハビリのことを知ることで、少しでもよりよい生活を送るための一助になればと思います。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年02月06日 更新)

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