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薬効かない耐性菌の影響拡大 岡山県内、抗生物質減 急ぐ病院

耐性菌が増えないよう、抗菌薬の選択や使用量が適正かをチェックしている川崎医科大病院のチーム

 「まさかうちの患者さんから新型の耐性菌が確認されるとは」

 岡山県内のある病院の医師が、昨夏、外来患者から国内にはほとんど存在しない耐性菌が見つかった時の衝撃を振り返る。

 患者は海外渡航歴があり、現地で感染したとみられる。国内に特効薬はなく、いくつもの抗菌薬(抗生物質)を組み合わせ発熱や疲労感などの症状をどうにか抑え込んだという。

 耐性菌は抗菌薬が効かず、本来なら完治するはずの感染症が重症化しやすくなる。世界で年間70万人が耐性菌によって死亡しており、このままでは2050年には1千万人に達し、がんの死者を上回ると推計されている。

 岡山県内でも薬が効かないケースが目立つようになり、治療への影響が広がっている。耐性菌が増えるのは抗菌薬の使い過ぎが大きな要因といい、国も昨秋から減薬へ向けた対策に乗り出した。不必要な投与をなくす対策が医療機関の間で急務となっている。



 「ここ2、3年、薬が効かない子どもが全患者の半数くらいにまで増えている」

 岡山済生会総合病院の田中弘之診療部長(小児科)は、子どもがかかりやすいマイコプラズマ肺炎で抗菌薬(抗生物質)が効かないケースが多いと警鐘を鳴らす。

 耐性菌は、抗菌薬の使い過ぎや、体内に菌が残っているのに患者が勝手に服薬をやめることなどによって、細菌の遺伝子が変異して生まれる。

 「一人の患者から複数の耐性菌が見つかることもある」と岡山市民病院の今城健二副院長。倉敷中央病院の石田直呼吸器内科主任部長は「抗菌薬を使えば使うほど耐性を持つ菌が現れ、治療が難航するケースが増えるのではないか」と懸念する。

 政府は昨年、抗菌薬の使用量を2020年までに13年比で約3割減らす目標を掲げた。どういう病気にどの抗菌薬をどの程度使うか、医師向けの手引も作成する方針だ。また、11月を対策推進月間に定め、抗菌薬に対する正しい知識を広める活動も始めた。

チェック 

 「抗菌薬の不適切な使用はありませんでした」

 1月上旬、川崎医科大病院内の会議で薬剤師が報告した。感染症の専門医や看護師、臨床検査技師とともに、院内で処方している抗菌薬の種類や使用量が適正かを週に2度、話し合っている。主治医に薬の変更や中止を助言することもある。

 同病院や同様の取り組みをしている倉敷中央病院では、院内全体の抗菌薬の使用量が以前より3割以上減ったという。

 中国四国厚生局岡山事務所によると、岡山県内の全病院の半数近い78施設が何らかの方式で抗菌薬の使用状況をチェックしている。

誤解 

 ただ、開業医が中心となる診療所はわずか1施設にとどまっている。人員不足などがネックとなっているようだ。同県医師会の国富泰二感染症対策担当理事は「抗菌薬の使い方や感染防止のノウハウを開業医が病院から学ぶ仕組みができれば」と言う。

 抗菌薬の使用を減らすには、病院の自助努力だけでなく、患者の意識改革も求められる。ウイルスが原因のインフルエンザやほとんどの風邪には抗菌薬は効かないが、万能だと誤解して処方を求める人は少なくないという。

 岡山大病院小児科の八代将登助教は「耐性菌が患者一人一人に関わる身近な問題であることを理解してもらえるよう、医療機関が連携して啓発に力を入れていく必要がある」と指摘している。

 薬剤耐性菌の感染者数 岡山県感染症情報センターに報告された同県内の主な耐性菌の昨年1~11月の感染者は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が88人、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)が26人、多剤耐性緑膿(りょくのう)菌(MDRP)が3人など。CREはほとんどの抗菌薬が効かず、厚生労働省によると、一昨年だけで国内で59人が死亡した。海外渡航歴のある人から国内にはなかった新型の耐性菌が持ち込まれるケースも全国的に増えているという。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年02月06日 更新)

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