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(34)TAVI(経カテーテル大動脈弁置換術) 心臓病センター榊原病院 吉鷹秀範上席副院長(心臓血管外科)

吉鷹秀範上席副院長

局所麻酔下でも可能に

 ―榊原病院では2013年12月から、TAVI(タビ)(経カテーテル大動脈弁置換術)を導入しています。全国で約100施設、岡山県内では同病院を含め2施設しか行っていない新しい治療法です。適用する疾患について教えてください。

 吉鷹 「大動脈弁狭窄(きょうさく)症」に適用します。心臓の左心室出口にある大動脈弁が徐々に硬くなって開きにくくなり、全身に血液を十分送り出せなくなる疾患で、老化に伴う動脈硬化が原因で起こります。65歳以上の罹患(りかん)率は2~3%で、国内に50万人以上の患者がいるとされています。狭窄症はゆっくりと進行しますが、狭心症や心不全、失神などの症状が現れた段階からは急激に状態が悪くなり、2年生存率は約50%です。早期に発見し、適切な段階で治療することが大切です。

 ―一般的にはどのように治療しますか。

 吉鷹 第一選択は外科手術です。開胸して傷んだ弁を取り除き、人工弁に取り替えます。ただ人工心肺装置を使うため、体への負担が大きく、開胸手術ができないケースがあります。当院では、85歳以上、心臓の手術経験がある、重度の動脈硬化、別の疾患治療で特殊な薬剤を服用している人などは手術リスクが高いと判断します。従来は薬で症状を和らげるしかありませんでしたが、TAVI導入で、治療可能な人が増えました。当院では大動脈弁狭窄症の手術を毎年約120例実施していますが、現在は約半数がTAVIです。

 ―TAVIはどのような治療法ですか。外科手術との違いは。

 吉鷹 開胸せずカテーテルを使って人工弁に取り替えます。約9割の人は足の付け根の血管からカテーテル(直径5~7ミリ程度)を挿入し、鉛筆ほどの太さに折りたたまれた人工弁(牛や豚の組織を使った生体弁)を大動脈弁の位置に運びます。バルーンで弁を広げて血管内に密着させるか、血管の形に合わせて自然に広がる弁を使って留置します。弁を正確な位置に縫い付ける開胸手術に比べると不確実性はありますが、人工心肺を使わず、体への負担が小さいのが特徴です。手術時間は平均1時間で、開胸手術(3~5時間)より短時間で済みます。血管の太さや動脈硬化の進行度合いによって、人工弁の種類やカテーテルの挿入位置などを検討します。心臓血管外科医だけでなく、循環器内科医、看護師、理学療法士ら多職種が連携し、患者の状態や術後のリハビリ、社会復帰まで考えて最適な治療法を選択するようにしています。

 ―生体弁はどれくらいもつのでしょう。再手術は必要になりますか。

 吉鷹 02年にTAVIが始まった欧州などの事例で、10年程度は耐久性があるのではないかと言われていますが、人工弁の改良に伴い、耐久性は年々向上しつつあります。16年には、新しい生体弁が登場したばかりです。当院でTAVI適用の平均年齢は85・6歳。弁がきちんとフィットしていれば、再手術となるケースは少ないでしょう。

 ―開胸しない分、高い技術が求められますね。

 吉鷹 ハイリスク患者に適用する治療のため、より慎重さが求められます。ただTAVIの手技やカテーテルなどの器具は、大動脈瘤(りゅう)のステントグラフト治療と多くの共通点があります。当院ではステントグラフト治療で1100例を超す実績があり、その経験がTAVIにも生きています。またステントグラフト治療が局所麻酔でできるならと、16年12月からは局所麻酔下でのTAVIも始めました。術後の安静が不要で、すぐに食事もでき、QOL(生活の質)向上が期待できます。今後は患者の症状を見ながらですが、局所麻酔下の治療例が増えていくと思います。

 ―今後、TAVIの適用は増えるのでしょうか。

 吉鷹 大動脈弁狭窄症は、長生きすると避けられない病気です。高齢化が進むとハイリスク患者が増え、TAVI適用は増えてくるでしょう。最近では、がん手術の負担に耐えられるよう、狭窄症治療をするケースがあります。TAVIで治療すれば術後の回復に時間がかからず、がん手術を適切なタイミングで行うことができます。現在のところ、当院でのTAVI術後の病院死亡率はゼロです。手術数が増えるほどに、より重症事例を引き受けるケースが増えてくると思いますが、今後も技術を向上させ、実績を重ねていきたいですね。

     ◇

 心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町2の5の1、086―225―7111)

 よしたか・ひでのり 高松高、香川医科大(現香川大医学部)卒、同大学院修了。1991~92年の2年間、循環器内科医として約1000例の心臓カテーテル検査、治療を経験。その後、大阪の国立循環器病センターで心臓血管外科医としてスタート。96年から心臓病センター榊原病院に勤め、2012年から現職。心臓血管外科専門医、TAVIプロクター(指導医)、ステントグラフト指導医(胸部・腹部)。54歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年02月06日 更新)

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