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小児医療に「プレパレーション」 検査や治療法を分かりやすく説明

クマの縫いぐるみを使って手術の手法について説明する看護師の半田さん=岡山大病院

 岡山県内の小児医療現場で、検査や治療方法を子どもに分かりやすく説明する「プレパレーション」の取り組みが広がりつつある。人形や検査機器の模型を使って過程を伝えることで不安を和らげ、泣いたり暴れたりする拒絶反応を減らし、より効果的な治療を行うことが狙い。医療行為によるトラウマ(心的外傷)を防ぐため、専門家は急性期から、かかりつけの病院まで幅広い実施を求めている。

 「明日は心臓というところの手術をします。マスクをしたら眠くなるから上手に付けようね」「起きたら管がつながっているけど、びっくりしないでね」

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)の一室。小児看護専門看護師の半田浩美さんがクマの縫いぐるみを使って男児(4)に話し掛けた。終わると手術室を見学して機器が並ぶ場に慣れる。興奮すると麻酔の導入がスムーズにできないことがあるという。

 同病院では2010年にプレパレーションを始めた。さまざまな診療科などで医師や看護師、技師らが子どもの発達に応じて取り組んでいる。「説明がないまま痛いことや怖いことをされたというショックが心の傷になり、大人へ不信感を抱く可能性がある」と半田さんはその重要性を語る。

■頑張れる環境

 プレパレーションは、18歳未満の子どもの人権を保障する「子どもの権利条約」に、日本が1994年に批准したころから全国で広がったという。検査や手術を担当する看護師が中心となって日時や場所、使用機器、目的、痛みの有無といったことを説明する場合が多く、倉敷中央病院(倉敷市美和)や倉敷成人病センター(同市白楽町)でも一部の治療の際に行われている。

 「単に説明するだけではない」と強調するのはプレパレーションに詳しい東京女子医科大の日沼千尋教授。「子どもが自由に自分の考えや感情を表現し、病気を治すために頑張ろうという気持ちになれる環境を整えることでもある」と話す。

 不安を軽減して子どもの主体的な姿勢を引き出そうと、医療機器にイラストを施したり、白衣でない親しみやすいユニホームを着たりする工夫も進んでいる。

 子どもに付き添う保護者の理解も欠かせない。嘘やごまかしで治療に当たらせた場合、トラウマになる恐れがあるからだ。9歳の息子が岡山大病院で心臓手術に関するプレパレーションを受けた母親(45)は「親は専門知識がない分、曖昧に答えがちで、余計に不安にさせたこともあったかもしれない。しっかり説明してもらえて息子も安心して臨めていた」と振り返る。

■互いに必要

 「プレパレーションの大切さをより多くの医療関係者に広めれば、学び合う仲間が増えて技術向上を図っていける」。こう提案する新倉敷耳鼻咽喉科クリニック(倉敷市新倉敷駅前)の福島邦博院長は、診察や治療にトラウマを抱えた子どもをたくさん見てきた経験から、関係者の理解が進むことを望んでいる。

 同クリニックでは、子どもの診察や処置時に使用器具を触らせ、内容や所要時間も事前に伝える。終わったら褒めてあげる。「頑張って乗り越える経験で子どもは成長する。有効な治療を求める診療側の立場だけではなく、互いのために必要なことという認識を広めていきたい」と考える。

 ただし、認知度はまだまだ低いのが実情だ。日沼教授は「小児の看護教育の中では必須項目になっているものの普及は限定的。専門性の高い看護師を配置した上で、その看護師が指導役となるなど多くの関係職種が学ぶ機会をつくることが必要」と指摘する。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年02月11日 更新)

タグ: 子供岡山大学病院

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