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岡山の中学校で「こころの病気を学ぶ授業」 東北大名誉教授 佐藤光源氏が講演

講演後に京山中生徒や回復者たちの輪に加わり、交流する佐藤光源氏(中央スーツ姿)

 岡山市立京山中学校2年生が精神疾患回復者と直接対話する公開授業「こころの病気を学ぶ授業」(同中学校、万成病院・多機能型事業所ひまわり主催)が昨年12月、同市北区谷万成の同病院で開かれ、約300人の生徒と約30人の回復者が交流した。「精神分裂病」から「統合失調症」への病名変更を主導した東北大名誉教授佐藤光源氏(78)=岡山市出身=も初参加し、回復者たちと共生する社会の実現を呼びかけた。「こころの病気とリカバリー」と題した佐藤氏の講演内容を紹介する。

 われわれ医療・福祉・保健に関わる人間は、心の病気から回復して希望と目標を持って生きることをリカバリーと呼んでいる。病気から解放され、新たに自分の人生をスタートする。当たり前のようだが、現実はなかなか大変。病気のことをよく理解し、回復者と共に生きる社会を実現しないといけない。

 がんなど体の病気に比べ、心の病気は具体的に分かりにくい。その分かりにくさがおかしな人というあいまいな印象を与え、誤解を生む。その誤解が偏見や差別につながり、自立を目指している人の社会参加を大きく妨げている。

 さまざまな心の病気があるが、共通しているのは、心の問題のために生きていく上で支障をきたしていること。社会生活が困難になるような心の問題で悩んでいたり、周囲の人が困っていたりという状況がある。

 医療や介護を日常的に受けないで、自立して生きていける状態を指す体の健康寿命が注目されているが、それ以上に心の健康寿命が大事だ。WHO(世界保健機関)は「心の健康なくして健康なし」という宣言を出した。ただ生きていればいいのではなく、幸福感や目標、希望を持って生きていく。心の健康を特に重視している。

 健康寿命を損なう心の病気はどんどん増えている。厚労省の統計では、2014年までの15年間に、うつ病などの気分障害は44万人から111万人、統合失調症は66万人から77万人にそれぞれ増加した。

 統合失調症は100人に1人くらいかかる。思春期の頃から発症し、成人後の人生に大きな影響を与える。この病気に対する誤解と偏見が回復者のリカバリーを妨げてきた。

 かつて「精神分裂病」と呼ばれたのは、精神が分裂する病というドイツ語の直訳だった。人間が人間でなくなり、慢性に進行して人格を崩していく病気という観念があった。遺伝を恐れて患者が妊娠できないようにしたり、あるいは流産させたりしていた。親も本人に病気を伝えられず、知った本人は絶望してしまう。そういうイメージが長年続いてきた。

 1993年、精神障害者の家族会から、この病名をなんとか変えてほしいという要望があった。WHOは2001年、「適切な薬物療法と心理社会的ケアを受ければ、患者の過半数は完全な回復を期待できる」と報告した。私たち日本精神神経学会の医師たちはそれを受けて慎重に検討し、02年に「統合失調症」という病名に変更した。

 もはや治らない病気ではない。深刻なストレスに対応できなくて混乱している病気の状態が過ぎれば、本来の自分に戻っていく。症状がなぜ起こるかという仕組みもかなり解明されてきた。

 医学の進歩がもたらした新しい病名と考え方を普及啓発しなければならない。昔の教科書で学んだ人は、統合失調症は治らないというイメージを持っている。そうではなく、回復して目標を持って生きていけるものだと、ここにいる皆さんが伝えてほしい。

 私が医学部教授だった時、統合失調症とはこういう病気だと言葉で説明するよりも、回復者本人の体験を直接聞く方がよく分かり、効果を上げていた。話を聞いた後は多くの人が、回復者は自分と何も変わるところがない、病気と人は別のものだ―と気づき、病気を通り過ぎた人の悩みを理解するようになった。

 希望と目標を持って生きていく回復者の人権や自立を阻んではならない。現実を変えるには、「こころの病気を学ぶ授業」などを通して理解を広げていくことが大切だ。

 さとう・みつもと 岡山大大学院博士課程修了。岡山大医学部助教授、東北大医学部教授、東北福祉大大学院教授を歴任。日本精神神経学会理事長として「統合失調症」への病名変更に尽力した。東北大名誉教授、公益財団法人・こころのバリアフリー研究会理事長。岡山市在住。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年02月20日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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