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(3)健康運動指導士 川崎医療福祉大学医療技術学部教授(健康体育学科長)宮川健

くらしき健康福祉プラザでストレッチandボールを指導する、健康体育学科14期生の中戸知江美さん

宮川健医療技術学部教授(健康体育学科長)

超高齢社会 活躍に期待

 中東アフリカでルーシーと呼ばれる人類の祖先が生きていたのは、今から約320万年も前のことです。その時以来ずっと、人類は「歩くこと、動くこと」を前提として進化と発達を続けてきました。今の私たちの身体(からだ)は、想像もできないくらい長い時間をかけ、その前提をもとに時々の地球環境や生活様式に適応しながら完成されたものです。

 しかし現代に生きる私たちは「歩くこと、動くこと」と引き換えに、以前の人類には思いもよらない便利な生活を手に入れました。その一方で、「歩くこと、動くこと」で維持されていた体内の秩序を大きく崩すことになりました。こうして人類は、健康で質の高い人生を全うするには「歩かない、動かない」ことに起因するさまざまな症状や病気(生活習慣病)に立ち向かうことが必要となったのです。

 このような現代に、運動を中心とした健康づくりの推進役として登場したのが健康運動指導士です。個々人の心身の状態に応じた安全で効果的な運動を実施するためのプログラムを作成し、その指導を行います。この資格は、1988年、当時の厚生大臣の認定事業として、生涯を通じた国民の健康づくりに寄与することを目的に創設され、2006年度からは公益財団法人健康・体力づくり事業財団の事業として継続されています。5年に1度の更新手続きが必要で、専門的な講演や実習の単位取得を条件としており、最新の知識と高度な技能を維持できる仕組みになっています。

 現在、健康運動指導士として登録されている者は全国で1万8千人おり、フィットネスクラブなどの健康増進施設、病院・診療所、老人福祉施設、介護保険施設、企業の健康管理部門、保健所などで活躍しています。

 川崎医療福祉大学健康体育学科は、認定校制度が始まった2007年から今日まで99人の健康運動指導士を養成し、地域と歩む医療福祉人・健康体育人として社会に送り出しています。

 その中の一人、くらしき健康福祉プラザに勤務する中戸知江美さんは、健康づくり事業の専門員として、18歳以上の倉敷市民を対象とした「お出かけ運動教室」の講師を務めています。市内6地区に出かけて行って、それぞれ30人程度の小グループで、家庭で簡単に行えるストレッチングや筋力づくりを指導しています。中戸さんは「スポーツクラブ等の運動施設があっても、そこまで通う交通手段がない方がいます。しかし、健康に対する意識は高く、ウオーキングやテレビ体操などで一緒に体を動かしています。私はその健康に対する意識の継続と、きっかけ作りのお手伝いをしたいと思っています」と話してくれました。

 また、健康運動指導士は医療福祉分野での多職種連携においても重要な役割を担っています。川崎医科大学付属病院健康診断センター(倉敷市松島)の健康運動指導士である脇本敏裕さんは、医師、保健師と連携し、人間ドック、健康診断受診者への運動指導を行っています。受診者の継続的な運動実践を支援するための運動教室や個別指導はもちろん、院内の診療科と連携し、糖尿病患者や非アルコール性脂肪性肝疾患患者などへの実践支援も重要な業務の一つです。健康づくりのための専門的指導を行うため、健康体育学科卒業生の健康運動指導士が3人勤務しています。

 さらに、超高齢社会における役割も忘れてはいけません。日常生活に必要な「体を動かす能力」が低下し、生活の自立度が下がる状態のことをロコモティブ症候群といいます。このような状態で何も対処しないと、要支援・要介護状態になると言われています。もちろん科学的な理論に裏打ちされた運動プログラムと指導がなければ適正な対処はできません。まさに健康運動指導士の活躍が期待されるところです。

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 川崎医療福祉大学(086―462―1111)

 みやかわ・たけし 広島大学大学院教育学研究科博士後期課程中退。博士(教育学)。1995年、川崎医療福祉大学講師、2015年より現職。副学長補佐、総合教育センター長、大学院健康体育学専攻主任。地域では、倉敷市スポーツ推進審議会委員、岡山県体育協会スポーツ医科学委員、岡山県学校剣道連盟理事。剣道教士七段。山口県防府市出身。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年02月20日 更新)

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