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呼吸器感染症の予防

川崎医科大学総合医療センターが開催した第3回開院記念市民公開講座。呼吸器感染症の予防をテーマに3人の医師が講演。大勢の人々が熱心に聞いた=2月4日、川﨑祐宣記念ホール

沖本二郎副院長・内科部長

宮下修行内科副部長

原宏紀内科副部長

 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)の第3回開院記念市民公開講座が2月4日、センター内の川﨑祐宣記念ホールで開かれた。同病院の沖本二郎副院長・内科部長、宮下修行内科副部長、原宏紀内科副部長の3人が、「呼吸器感染症の予防」をテーマに講演した。

インフルエンザの予防 副院長・内科部長 沖本二郎

 インフルエンザをこじらせると肺炎になります。そのインフルエンザを予防注射以外で防ぐ方法はないかということで、いろいろ考えてみました。

 大正年間にスペイン風邪(1918、19年)がはやり、日本では38万8千人が亡くなりました。大正9(1920)年には内務省衛生局長名で「予防心得の標語」、今で言うちらしが配付されました。

一、近寄るな―咳(せき)する人に

二、鼻口を覆え―多(ひと)の為(ため)にも身の為にも

三、豫防(よぼう)注射を―轉(ころ)ばぬ先に

四、含嗽(うがい)せよ―朝な夕なに

 100年前と今と変わりませんね。ということはこれが一番大切なんでしょうね。

 さて、当時からうがいとマスクの大切さは強調されていましたが、本当に効くのでしょうか。
 皆さんがしている普通のマスクで7、8割はインフルエンザを予防できます。

 では、うがいはどうか。水もいいですが、お茶でのうがいも効くようです。ある医学雑誌には、紅茶が有効だと書いていました。病院でよくもらうイソジンですが、これは殺菌力が非常に強力なので、喉に付いている味方の菌まで殺してしまいます。だから、イソジンはなるべく薄めて使ってください。

 ただ、インフルエンザウイルスは8時間後には100倍に、1日後には100万倍に増えます。なので1日1回のうがいではとても追いつきません。1日3回以上、コップ1杯以上の量で行いましょう。

 予防接種は19歳以下には有効です。若い人と65歳以上の方は積極的に受けましょう。予防に有効な食べ物はヨーグルト、ヤクルト、ココア、みそ汁と言われます。これは全て乳酸菌を含んでいます。乳酸菌で胃腸を元気にすると抵抗力が付きます。ビタミンCや葛根湯もいいようです。

 受験や結婚式など、どうしても予防したい場合はタミフルなどの予防内服をお勧めします。内服中はほぼ発症が抑えられます。

肺炎の予防 内科副部長 宮下修行

 日本人の死因の1位はがん、2位は心臓病、肺炎は3位です。肺炎で亡くなる患者さんの90%以上は65歳以上です。さらに、肺炎にかかる人のほとんどは60歳以上。だから、60歳を超えると免疫力が弱くなって肺炎にかかりやすいし、亡くなりやすい。これが非常に重要なことなんです。

 肺炎は、だいたい1週間以内で治るんですが、食事や移動、排泄(はいせつ)などの日常生活動作(ADL)が落ちてしまいます。廃用症候群と言います。足腰が弱って骨折するかもしれず、肺炎は治っても自宅に帰れない。以前は、回復期リハビリテーション病棟が受け持ってくれましたが、今は脳梗塞などの患者さんだけで、肺炎後の廃用症候群は診てくれません。そういう制度になりました。

 そうすると慢性期の病院に行かざるを得ません。回復期リハビリテーション病棟では1日3時間リハビリをしてくれますが、慢性期病院は40分ほど。そうすると寝たきりの状態が増え、飲み込んだりせきをする嚥下(えんげ)の機能が落ちてしまい、食物などが誤って喉頭と気管に入ってしまう誤嚥を起こしやすくなります。日本の高齢者に最も多い肺炎は誤嚥性肺炎です。

 ここに問題が起こります。嚥下機能が衰えれば、チューブで直接胃に栄養を送り込む胃ろうを作ろう、となります。ただ、胃ろうを作ると肺炎が起こりやすくなります。誤ってものを飲み込んで肺炎を起こすのではなく、胃の中に送り込まれた食物が、腸の動きが悪いため夜間寝ているときに逆流して肺に入って肺炎を起こし、入院を繰り返してしまうのです。さらに、高齢者が肺炎になると認知症の発生リスクが高くなり、自宅に帰りにくくなります。

 入院すれば多額のお金がかかります。そこで国が強調しているのが健康寿命の延伸です。健康寿命を損なわないため国が進めている施策が認知症の予防とともに高齢者の肺炎予防です。2014年から肺炎球菌ワクチンの公費負担が始まりました。肺炎球菌は呼吸器感染症の王様と言われるくらい怖い菌で、65歳を超えると急に感染しやすくなります。ワクチンにはニューモバックスNPとプレベナー13があります。公費負担はニューモバックスNPだけですが、タイプが違うし効果が上がるので両方打つことをお勧めします。

COPD(たばこ病)の増悪予防 内科副部長 原宏紀

 COPDは、たばこの煙に含まれる有害物質で肺が障害を受け、せきやたん、息切れを起こす病気で肺の生活習慣病とも言われています。喫煙者の15%から20%が発症するといわれ、患者の90%には喫煙歴があります。吸い始めて20年から40年くらいでCOPDになることが分かっています。

 高齢者に多いのですが、息切れは年齢のせいだと思い、病気に気が付いていない人や治療を受けていない人も含めて全国に530万人ほどいて、20人に1人くらいがCOPDだと言われます。WHO(世界保健機関)の調査による世界の死亡原因のランキングでは1990年には第6位でしたが、30年後の2020年には第3位になると予測されています。日本でも高齢化が進むことから、ますます増えることが予想されます。

 長年にわたってたばこの煙の中に含まれる有害物質を吸い込むことによって気管支の壁が厚くなったり、肺胞が壊れて空気の出し入れができなくなって息切れがする病気です。日本語では慢性閉塞性肺疾患と言い、慢性的に空気の通りが悪くなります。肺気腫と慢性気管支炎を合わせてCOPDといいます。

 症状としては初めのうちはせき、たん、階段や坂道での息切れですが、次第に同世代の人と同じペースで歩くことができなくなり、症状が進むと平地でも少し歩くと苦しくなって休まないといけなくなります。もっと重症になると、食事をしたり会話をするだけでも息切れが起こり、外出できなくなってついには呼吸困難のために寝たきりになってしまうこともあります。

 この病気には急性増悪と言って、急に病状が悪くなることがあります。それは冬季に多く、原因として一番多いのが呼吸器感染症で、風邪を含めたインフルエンザなどのウイルス感染、肺炎球菌などの細菌感染です。

 感染症を起こせば治療をしますが、COPDの場合は入院治療しても完全に良くなる前にまた感染して入院を繰り返す。だんだん重症化して急性増悪のスパイラルに陥ってしまいます。

 増悪予防はまず風邪をひかないこと、それでも風邪をひいて症状が出れば病院を受診してください。ワクチンを打つのも有効です。COPDも自己管理をすることによって快適な生活、元気を保つことができます。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年03月06日 更新)

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