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(4)がん専門薬剤師 倉敷中央病院薬剤部 石原泰子

「何か困っていることや気になっていることはありませんか」と、ベッドサイドで患者に語りかける薬剤師

石原泰子薬剤師

 「次の薬は、私に合えばいいなぁ…。これがいけんかったら、どうなるんじゃろ」

 胃がんのため、抗がん剤治療を続けていた60代の男性の言葉です。

 男性は、1年半ほど前に胃がんが見つかり、抗がん剤による治療が開始されました。主治医からは、予後は非常に厳しく、「年は越せない可能性もある」と、ご本人にもご家族にも伝えられていました。初めに使った薬では肝機能が悪くなったため、二つ目の抗がん剤が選ばれました。治療開始時には痛みがあり、医療用麻薬(オピオイド)も使っていました。そのような状況で、お薬の説明のため病室を訪ねたときに、薬剤師に向けて発せられた言葉です。

 抗がん剤は、効果と副作用を分けるのが難しいお薬です。そのため、副作用を上手にコントロールしながら、治療を継続していく必要があります。また近年は、抗がん剤の種類や副作用が多岐にわたること、外来での治療が可能になったこと、高額な抗がん剤が増えたことなどにより、患者さん一人ひとりの抱える問題がより複雑になっています。さらに、この男性のように、抗がん剤治療と同時にオピオイドで痛みの治療を行うことも、今では珍しくはありません。そのため、がん治療には多職種が集まった専門的なチームが必要です。

 倉敷中央病院では、薬剤師もそのチームの一員となり、患者さんとさまざまな場面で関わっています。

 入院中、男性に、つらい症状や痛みについて薬剤師が尋ねると、痛みはまだ取りきれておらず、昼間に眠気(副作用)を感じていると話されました。病棟の看護師にも男性の様子を聞いてみると、日中にオピオイドを頓服した後に、特に眠気が出ていることが分かりました。

 一方で、夜間は痛みで目が覚め、オピオイドの頓服をしているという状況でした。そこで、その症状を医師に伝え、痛みを和らげるためにオピオイドを増量するのではなく、別の作用をする痛み止め(NSAIDs=消炎鎮痛剤という種類のお薬)を追加することで、取りきれていない痛みを抑えることができるかもしれない、と相談し、処方してもらいました。その晩からそのお薬の内服が始まりました。

 翌日、薬剤師が男性を訪ねると、「昨日先生が出してくれた新しい痛み止め、よく効いたんよ。寝れたわ」とうれしそうに教えてくれました。このように、薬剤師は時に、医師や看護師と一緒に患者さんの症状やお薬について話し合うこともあります。

 冒頭の男性の言葉「次の薬は…」は、治療を受けられる患者さんが誰でも思うことです。男性の場合、二つ目の抗がん剤は効果があり、外来でオピオイドの量を減らすことができました。

 がん患者さんで、入退院を繰り返す方は少なくありません。外来で治療を行うときや、痛みが急激に増強して入院されたときには、その都度、薬剤師もお話をうかがいました。治療開始から1年近くたった頃、「年越せんって言われとったのに、(年も越して)もう秋になるがなぁ」と、ほほ笑んでおられました。退院するとき、男性はいつも、「またこれからもよろしくお願いします」と言って、自宅に帰って行かれました。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)

 いしはら・やすこ 倉敷南高校、神戸薬科大学薬学部卒、神戸薬科大学大学院修士課程修了。2002年から倉敷中央病院勤務。08年9~12月、国立がん研究センター中央病院(東京)にて研修を受けた。日本医療薬学会がん専門薬剤師、日本臨床腫瘍薬学会外来がん治療認定薬剤師、日本病院薬剤師会がん薬物療法認定薬剤師。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年03月20日 更新)

タグ: がん倉敷中央病院

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