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高度医療、産婦人科で高い実績 倉敷成人病センター(倉敷市白楽町)安藤正明院長

安藤正明院長

「ひとりひとりにやさしく、最良の医療を提供する病院」がモットーの倉敷成人病センター。地域の妊婦の安心・安全な出産の場となっている

倉敷成人病センターとベビー子ども服メーカー「ファミリア」が共同開発した新生児用の院内ウエア。両者は「手を携えて、最良の出産、子育て環境創出を目指したい」としている

 ―倉敷成人病センターといえば産婦人科の治療実績で知られていますが、その他の分野でも専門性の高い医療を提供しています。

 安藤 当院は269床の中規模病院で、地域への貢献は限られたものになります。だから、産婦人科をはじめ整形外科や眼科などある程度分野を絞って押し出していこうという考えを持っています。眼科の患者さんはかなり多く、岡山県西部では最多でしょう。リウマチや膠原(こうげん)病、肝臓病など、かなり特殊な分野にも専門家がいます。この方面でも大病院に引けを取らないレベルにあると自負しています。

 ―その中でも産婦人科は子宮頸(けい)がん、子宮体がんなどに対する腹腔鏡による手術件数が全国トップと聞いています。

 安藤 2016年は悪性、良性を含めて1556例の手術をしました。腹腔鏡を導入したのは1997年です。当時は膣から子宮を取り出す膣式手術をしていましたが限界がありました。がんの手術ではかなり広範囲におなかの中を触らないといけません。そうなると膣式では無理なので、非常に高度な技術が要求されるけれども翌98年から腹腔鏡による手術を始めました。国内では最も早い時期です。これまでの約20年で千例以上、比較的大きながんの手術をしています。

 産婦人科の強みは、腹腔鏡や手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った、体への負担が少ない低侵襲手術です。開腹すれば体力が戻るまで長い時間がかかり、2週間近く寝たきりの状態になります。腹腔鏡だったら高齢者でも翌日には歩けて食事もできるなど大きな差があります。ダヴィンチは13年に中四国の民間施設で初めて導入し、手術数は200例を超えました。当院は西日本で唯一の指定研修施設となっています。

 ―お産も多く、中四国では最多とか。

 安藤 昨年の分娩(ぶんべん)数は1600例を超えました。01年には、子宮頸がんで腹腔鏡による子宮温存手術に国内で初めて成功しました。子宮は妊娠・出産などの機能を果たす臓器であり、特に妊娠や出産を考える女性にとっては子宮頸がんの発症は深刻な問題です。将来妊娠したいという強い希望がある場合には、がんの病期にもよりますが「腹腔鏡下広汎性子宮頸部切除術」を施行する場合があります。子宮体部を残し頸部のみを切除する手術法であり、妊娠の可能性を残すことができます。これまで100人近くに実施し、うち35人ぐらいが妊娠を試み、生まれた赤ちゃんは20人を超えました。

 ―産科では主治医制を採用していますが、その理由を教えてください。

 安藤 普通の病院なら夜間は当直医が診るというシステムですが、妊婦さんの安心を考えて産科ができたときからこの制度を続けています。外来で主に妊婦健診を担当した医師が出産にも立ち会っています。医局員が17人いるので主治医制が可能になっています。17人というのはちょっとした大学病院並みの数です。

 ―3月からベビー子ども服メーカー「ファミリア」(神戸市)と業務連携し、新生児用の院内ウエアを共同開発しましたね。ファミリアは創業者の一人がNHKの連続テレビ小説「べっぴんさん」のヒロインモデルとなったことで話題の企業ですね。

 安藤 赤ちゃんの敏感な肌に合わせて、助産師や看護師、保育士、そしてファミリアのスタッフが知恵を出し合って作ったベビー服なので、クオリティーは高いと思います。「医療」と「衣料」の新たな取り組みで、ファミリアと病院がベビー服を共同開発したのは全国初となります。

 ベビー服のポイントは三つあり、一つは初めてのお母さんでもスムーズに着替えができるよう肌着とウエアを一体化させました。二つ目は赤ちゃんの顔色がよく分かり、汚れも目立つように清潔感のある白にしたことです。そして、倉敷成人病センターのマークを取り入れたオリジナルのワンポイントを入れました。院内にはファミリアの製品を触って見られるコーナーも設けます。

 ―この事業の目的と背景は何でしょう。

 安藤 ファミリアは、赤ちゃんの最初の千日を大切にしていると聞いています。千日とは、妊娠が分かってから出産までの約270日と、赤ちゃんが産まれてから2歳の誕生日を迎えるまでの約730日を合わせた期間です。赤ちゃんはおなかの中で神経や臓器、脳と体の機能を整えながら大きくなります。そして産まれた後は、心と体、五感をさらに発達させて成長します。そうした考えのファミリアと、「ひとりひとりにやさしく最良の医療」をコンセプトに妊婦さんや赤ちゃんをサポートしている当院の思いがシンクロした取り組みです。また、お産は病気ではないということもあります。妊婦さんのニーズもあり、出産までをホテルのような感覚でいられるようにと考えました。

 ―小児科にも力を入れていますね。

 安藤 昨年7月に小児病棟を設置しました。12月までに外来に1日平均152人、入院したのは789人です。地域のニーズも踏まえ、生まれた子どもを全人的にずっと診ていきたいという思いがあります。小児神経の専門医が3人いて、自閉症スペクトラム障害、神経発達障害、脳性麻痺(まひ)など小児神経疾患にもしっかり対応していきます。

 ―今後の病院の将来像をどう描いていますか。

 安藤 今はどこの病院も経営的に困難さを感じています。ある程度利益を出していかないと、将来につながる設備投資ができなくなります。だから他の病院にはない特徴を打ち出す必要があり、大きな病院にもこれだけは負けないという分野には力を集中しようと考えています。近く新棟建設を検討しておりますが、この病院の特色を伸ばしていけるような施設とし、対外的にもアピールしていこうと思っています。

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 倉敷成人病センター(086―422―2111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年03月20日 更新)

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