文字 

膵臓がん早期発見に超音波内視鏡 県内病院導入進む、人材育成が鍵

超音波内視鏡を用いた膵臓がん検査に取り組む岡山赤十字病院の原田医師(左)ら

 がんが進行してから見つかる例が多く、生存率が極めて低い膵臓(すいぞう)がんの早期発見に有効な「超音波内視鏡」を用いた検査方法の導入が、岡山県内の医療機関で進んでいる。詳細な画像で膵臓を観察できる上、特殊な針で細胞を採取し、がんかどうかを直接調べられる利点がある。ただし、診断の精度は医師の技術に左右され、人材育成がさらなる普及の鍵を握っている。

 先端に超音波装置を取り付けた機器による検査を行う岡山赤十字病院(岡山市)。中心となり取り組む原田亮医師が、横になった男性の口から内視鏡を奥深く挿入すると、胃の裏側にある膵臓のエコー画像が映し出された。

 映像を基に胃壁越しに膵臓の病変部に針を刺して細胞を吸引し、立ち会いの細胞検査士が隣室の顕微鏡ですぐにがん細胞と確認した。これは「EUS―FNA」と呼ばれる検査手法で、同病院では2014年から本格化させている。男性は後日、手術でがんが摘出された。

 □   ■

 膵臓がんはCT(コンピューター断層撮影)などでは、小さな腫瘍を捉えきれず発見が難しい。その上、「膵臓がんと診断され、手術した中で5~10%はがんではなかったとの統計もある」と原田医師は指摘する。

 がんかどうか経過観察しているうちに進行する事態を防ぐために、細胞を直接採取できるEUS―FNAは有効で、13年に5件だった同病院での実施は昨年、62件と急増した。

 診断後の生存率が極めて低いのもこのがんの特徴だ。国立がん研究センターによると、診断から5年後の生存率は7・7%にすぎなかった。だが、日本膵臓学会によると、腫瘍が1センチ以下の場合なら5年生存率は80・4%にはね上がる。

 EUS―FNAはこうした初期段階での発見に効果的とされる。県内では、専門的ながん診療を提供する「地域がん診療連携拠点病院」6施設のうち5施設で手掛けており、普及が進む。

 □   ■

 課題は診断を担う医師の養成だ。この検査法で、超音波装置を動かすのは胃や十二指腸の中であるのに対し、観察対象の膵臓はその外にあり、くまなくチェックするには装置を自在に操る高度な技術が求められる。

 10年以上前から導入している岡山大病院(岡山市)の加藤博也助教は「生存率を高めるには熟練した医師を数多く育て各地域で診断できるようにする必要がある」と力を込める。同病院は12年、「岡山EUS研究会」を発足。毎春、県内外の病院医師が集まり、エキスパートを招いた講演や各病院の実践発表を通じて技術を高め合っている。また加藤助教や原田医師らも合同の勉強会を始めた。

 原田医師は「現状のマンパワーではリスクの高い患者にEUS―FNAを行うだけで手いっぱい。いずれは前段階の患者にまで検査ができる環境を整えたい」と話す。

 膵臓 細長い臓器で、食物の消化を促す膵液をつくり、血糖値を調整するインスリンなどを分泌する。胃や十二指腸、肝臓などに囲まれ、体の奥深くに位置しており、がんができても発見が難しく、初期段階では自覚症状も出にくい。膵臓がんは治りにくいがんの代表格で、毎年3万人以上が死亡している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年03月20日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ