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HIVは制御可能  新薬組み合わせ処方

最新の治療法について解説する和田教授

血液を採取する検査室。問診を含め約30分で終わる=岡山市保健所

 1987年に国内で初めてエイズ患者が認定されて以降、患者とエイズウイルス(HIV)感染者は増え続けている。完治させる治療法は現在も確立されていないが、新薬開発で発症を抑えることができるようになり、医療関係者の間では「もはやコントロール可能な疾患」とされる。今年4月、岡山県中核拠点病院に指定された川崎医科大付属病院(倉敷市松島)の和田秀穂教授(血液内科学)に最新治療を解説してもらうとともに、検査の重要性を考えてみた。1日は「世界エイズデー」。

 以前、川崎医科大付属病院を受診した三十代男性は、肺の機能が落ち、呼吸困難に陥る間質性肺炎を発症していた。

 診察した和田秀穂教授は「体力のあるこの若さで間質性肺炎はおかしい」と、検査を勧めた。体を守る免疫機能の“司令塔”となる細胞「CD4陽性リンパ球」の数を調べたところ、健康な人(一マイクロリットル中約千個)の二十分の一の五十個前後しかなく、すでにエイズ発症の指標となるニューモシスチス肺炎を発症していることが分かった。

 「間違ってほしくないのだが、エイズ患者=エイズウイルス(HIV)感染者ではない」と和田教授。HIVはヒトの「CD4陽性リンパ球」に感染すると、次々と増殖し正常な細胞を壊しながら、免疫機能を弱らせていく。その結果、外部から体内に侵入してきた細菌やウイルスに対応できなくなり、感染症を起こす。感染から発症までの潜伏期間は個人差があるものの、およそ十年という。

 ニューモシスチス肺炎や悪性腫瘍(しゅよう)のカポジ肉腫など、健康な人がかかりにくい二十三の感染症を発症し、HIV感染が確認できればエイズと診断される。

 治療はエイズ患者もHIV感染者も基本は同じ。HIVの増殖を抑えることで、CD4陽性リンパ球を増やす。「かつてはエイズを発症すると死ぬ、という認識だったが、今は必ずしも死ぬ病気ではない。治療により、健康なときと同じような生活ができるようになった」と和田教授。

 その中心となるのが、同病院でも取り組んでいる「多剤併用療法」。一九九〇年代後半以降に開発された新薬数種類を組み合わせて処方する。

 和田教授は「HIVは頻繁に遺伝子が変化するため、一つの薬ではいずれ耐性を持ったHIVが出現し、薬が効かなくなってしまう。『多剤併用療法』は、複数の薬を同時に服用し、HIVにできるだけ耐性を持たせないやり方」と説明する。同病院ではCD4陽性リンパ球が二百―三百程度に減少した時点で治療を開始。三種類前後の薬を組み合わせ、毎日決まった時間に服用してもらう。

 「二〇〇〇年に入ってから、新しい薬が次々登場し、高い効果が見込める組み合わせが分かってきた。エイズは、もはや発症をコントロールできる疾患」と和田教授。

 とはいえ、根本的な治療法は確立されておらず、ウイルスを体から完全に追い出すのは不可能だ。発症をコントロールできても、患者は薬を一生飲み続けねばならない。

 和田教授は「エイズ患者、感染者は増え続けている。特に地方は気を付けなければいけない。大都市と比べ検査を受ける機会が少なく、感染に気付かず発症してから受診するケースもあるからだ」と指摘する。

 HIVは日常生活で感染することはまずない。基本的には性交渉で感染するため、コンドームを使用するなど予防策の周知徹底も必要だ。

 和田教授は「早期に発見できれば、治療計画が立てやすい。検査を受けて、もし感染が確認されたら、専門医が配置されているエイズ拠点病院を受診してほしい」と話している。


まず感染有無確認 夜間検査 匿名OK

 エイズ治療の出発点は、まず感染の有無を確認することだ。血液検査は病院だけでなく各保健所でも行うことができ、保健所での検査料は原則無料、夜間に実施している施設もある。感染の拡大を防ぐためにも、不安を感じた場合は受けるようにしたい。岡山市保健所(岡山市鹿田町)を例に、検査の流れを紹介する。

 同保健所の場合、検査日は月曜日午後と水曜日午前。第一月曜日は夜間に実施している。完全予約制で、電話で申し込む。検査は匿名で受けることができ、名前や住所など個人を特定する情報は、医師や看護師にも聞かれることはない。

 指定された時間に行くと、看護師か保健師が問診を行い、血液を採取。三十分程度で終了する。結果は約一週間後にもう一度保健所を訪れ、医師から伝えられる。

 HIVの侵入を防ごうとする抗体が体内にできていれば陽性(プラス)となり感染、できていなければ陰性(マイナス)と出て非感染となる。

 注意したいのは感染の可能性がある機会から三カ月前後経過しないと、感染の有無がはっきり判定されないこと。感染しても体内に抗体ができるまでに一定期間を要するためだが、同保健所は「三カ月以内でも目安を得ることはできる。一日の検査人数は決まっているので、電話で確認してもらう必要はあるが、気になる人はぜひ検査を受けてほしい」としている。


岡山県内のエイズ拠点病院(◎は県中核拠点病院)

◎川崎医科大付属病院(倉敷市松島) 086―462―1111
 岡山大病院(岡山市鹿田町) 086―223―7151
 国立病院機構岡山医療センター(同市田益) 086―294―9911
 岡山赤十字病院(同市青江) 086―222―8811
 岡山済生会総合病院(同市伊福町) 086―252―2211
 岡山労災病院(同市築港緑町) 086―262―0131
 川崎病院(同市中山下) 086―225―2111
 倉敷中央病院(倉敷市美和) 086―422―0210
 国立病院機構南岡山医療センター(早島町) 086―482―1121
 津山中央病院(津山市川崎) 0868―21―8111


エイズ検査を実施している岡山県内の保健所

岡山市保健所(岡山市鹿田町)
岡山保健所(同市古京町)
東備保健所(備前市東片上)
勝英保健所(美作市入田)
津山保健所(津山市椿高下)
倉敷市保健所(倉敷市笹沖)
倉敷保健所(同市羽島)
井笠保健所(笠岡市六番町)
高梁保健所(高梁市落合町近似)
真庭保健所(真庭市勝山)
新見保健所(新見市新見)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2007年12月01日 更新)

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