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(上)早期発見・支援で社会適応向上 旭川荘療育・医療センター精神科部長 本田輝行

本田輝行精神科部長

 1歳6カ月児健診で「言葉の遅れ」「視線が合わない」ことを指摘されたA君とお母さんは、勧めもあり、旭川荘の児童精神科外来を受診しました。診察と検査などの結果、自閉スペクトラム症(ASD)と医師から診断され、A君が持っているASDの特性、今できること、先々の見通しについて説明がありました。

 ASDは発達障害の一つで、自閉症を広くみた医学的診断名です。その早期発見・早期支援は、そのときの子育てにとって、また長期的には社会適応向上にとって有効なことが分かっています。

 子どもの20~50人に1人はASDであると言われています。実数が増えている客観的な証拠はありませんが、病院を受診する子どもは確実に増加しており、支援ニーズは高まっていると言えます。原因は不明ですが、育て方に起因するものでないことは証明されています。

 特徴は対人コミュニケーションの困難さ、反復的・限定的な行動、感覚の過敏さです=。病気ではないので治すという考えはふさわしくありません。「多くの人と違った見方・考え方・感じ方・人との距離のとり方をする」脳機能タイプとも言えます。その表れは年齢や環境によってさまざまであり、また言葉・運動・知的な遅れ、注意欠如・多動症(ADHD)や限局性学習症(SLD)など他の発達障害、てんかんなど発達期の障害などを併存することがあります。

 ASDは1歳半で分かる可能性があります。この年齢ではこだわりなどASDらしい特徴は目立たないことも多いのですが、人への関心・人とのやりとりについては特徴的な点があります。もし1歳半健診でこういった発達を気にされたら、まずは「ASDかも?」と思い、子どものやりとりや行動に目を向け、子育てを考えることは子どもの成長にとって決してマイナスはありません。

 受診して診断がついたら、親はASDの特性について学び、A君の特徴を知っていきます。「こだわりが強い」「初めてのことが不安」などの特徴を知っていると、かんしゃく・多動など気になる行動があったときにその背景や理由をつかめ、「叱られるだけ」「本当はどうすればよいのか分からないまま」といったことにはならず、適切な関わりにつながります=。そして支援者と相談もしながら工夫して子育てを行っていきます。就園していれば園の先生に子どもの情報を提供し理解と配慮を求めます。

 特に早期には「療育」が勧められます。療育はその子にあった内容と目標で行われます。子どもは、用意された分かりやすい環境で(構造化、TEACCHによる)、遊びや人とのやりとりがじょうずにできる・楽しめる・褒められるという体験を積み重ねます。その結果として、遊びややりとりの楽しさを知り、さまざまなスキルを獲得し、自己効力感を育みます。親はこの体験を見守り、子どもを理解し、可能性を知ります。「できた」ことに目を向けることは子どもの成長にとってとても大切です。

 療育は特別な施設で行われていますが、療育的な関わりは家庭、学校など日常的な生活の場でも可能です。また、ペアレントトレーニングやペアレントプログラムといった家族支援も浸透しつつあります。

 療育と相談を続ける中、A君は成長し、初めは不安でいっぱいで自信もなくしがちであったお母さんもASDやA君のことが分かり、就学前の今、とてもポジティブです。

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 旭川荘療育・医療センター(086―275―8555)

 ほんだ・てるゆき 一宮高校、島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。岡山大学病院、高岡病院(兵庫県姫路市)などを経て、2005年より現職。日本精神神経学会専門医。日本児童青年精神医学会認定医。医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年04月17日 更新)

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