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(6)認定遺伝カウンセラー 川崎医療福祉大学医療福祉学部准教授 山内泰子

川崎医療福祉大学大学院遺伝カウンセリングコース3期生の高尾佳代さん。川崎医科大学付属病院遺伝診療部の認定遺伝カウンセラーとして活躍している

山内泰子医療福祉学部准教授

遺伝の問題で意思決定支援

 米国女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、乳房や卵巣を予防的に切除したとの報道をご覧になった方もあると思います。彼女の家系内に乳がんや卵巣がんになった方が複数いたので、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」になりやすいか原因遺伝子の検査(遺伝学的検査)を受けたところ、乳がんで亡くなった母親と同じ変異(特徴)が見つかりました。定期的検診の選択肢もありましたが、まだがんを発症していない乳房の切除・再建を決めたようです。

 遺伝医学・臨床遺伝学の進歩により、あらゆる診療科で遺伝情報(DNAや染色体)に基づく新しい医療(遺伝医療)が始まっています。遺伝情報を調べることで適切な治療方針を選択したり、ご家族を含め、発症するのかどうかの予測(発症前診断)ができる疾患もあります。ただ、こうした情報を「知りたい」と思う方がいる一方で、「知りたくない」と言う方もいらっしゃるでしょう。自分だったらどうしよう、子どもたちも同じ病気になるのだろうか…。このようなご心配に応じるのが遺伝カウンセリングです。

 認定遺伝カウンセラーは遺伝に関する事柄に直面した方々を支援し、その権利を守る保健医療の専門職です。身体の設計図であるDNAを人はみんな持っているので、遺伝学的な問題に誰もが遭遇する可能性はあります。認定遺伝カウンセラーは医師とともに心配な事柄をお聴きし、クライエント(来談された方)とともに問題を整理し、クライエントご自身がより納得できる選択を目指して意思決定の支援をします。各診療科医師や医療福祉の専門家と連携し、最新の情報提供と心理的、社会的(福祉や教育・就労等)支援をします。気兼ねなく相談いただけるよう遺伝カウンセリングに関するセキュリティーには特段の配慮をし、倫理的問題が含まれる場合は、医師とは独立した立場で検討します。

 従って認定遺伝カウンセラーには遺伝医学の知識だけではなく、生命倫理、臨床心理、社会福祉など幅広い分野の知識とカウンセリング技術が求められます。欧米では50年近い歴史があり、日本では2005年に資格制度が始まりました。現在、岡山県内の医療機関には4人の認定遺伝カウンセラーがいます。

 専門教育は認定養成課程のある大学院で行われ、修士課程修了後の認定試験に合格すれば、日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会が共同認定する資格が得られます。中四国で認定養成課程があるのは川崎医療福祉大学大学院1校のみです。

 川崎医科大学付属病院遺伝診療部では各診療科の協力のもと、臨床遺伝専門医と一緒に遺伝カウンセリングを行っています(予約制、086―464―1567)。相談に来られる理由は、生まれつき何らかの症状があるお子さんの診断や成長に関することだったり、出生前診断のことなどさまざまです。認定遺伝カウンセラーは相談にみえた方々とともに考え、お気持ちを含めた支援をしてまいります。医療福祉人として、皆さまのお役に立ちたいと願っております。

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 川崎医療福祉大学(086―462―1111)

 やまのうち・やすこ 信州大学大学院医学研究科遺伝カウンセリングコースにて遺伝カウンセリングを学び、お茶の水女子大学大学院を経て2009年より現職。博士(薬学)、修士(医科学)、認定遺伝カウンセラー。川崎医科大学付属病院遺伝診療部にて臨床遺伝専門医とともに遺伝カウンセリングを担当している。日本遺伝カウンセリング学会理事、日本認定遺伝カウンセラー協会副理事長。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年04月17日 更新)

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