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女性のがん~検診から最新の治療まで

川崎医科大学総合医療センターが開催した第5回開院記念市民公開講座。「女性のがん~検診から最新の治療まで」をテーマに3人の医師が講演。大勢の人々が熱心に聞いた=4月22日、川﨑祐宣記念ホール

鎌田智有総合健診センター部長

中島一毅外科副部長

本郷淳司産婦人科部長

 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)の第5回開院記念市民公開講座が4月22日、センター内の川﨑祐宣記念ホールで開かれた。同病院の鎌田智有総合健診センター部長、中島一毅外科副部長、本郷淳司産婦人科部長の3人が、「女性のがん~検診から最新の治療まで」をテーマに講演した。

女性に増えている大腸がん ~その予防から早期診断と治療まで
総合健診センター部長 鎌田智有


 近年、女性におけるがん死亡の1位が大腸がんとなっています。女性も社会進出により飲酒の機会が増えました。また、女性ホルモンが大腸がんの抑制因子の一つであると示唆されており、女性ホルモンが低下する更年期以降は要注意です。

 大腸がんは、大腸のいろいろな部位に発生しますが、統計学的には、肛門近くの直腸と、S字になったS状結腸に発生するのが全体の約60%を占めます。初期では自覚症状がほとんどありません。便に血が混じったり便が細くなる、便秘気味になる、といった症状が出てくると、大腸がんが進行している可能性があります。

 早期の段階で大腸がんを診断するには、がん検診を受けることが重要です。

 便潜血検査 スクリーニング検査として用いられ、2日間の便を調べます。がんやポリープなどがあると、大腸内に出血することがあるため、その血液を検出する検査です。2日とも血が混じっていなければ「異常なし」、混じっていればがんやポリープの可能性もあるので内視鏡による2次検診を受けていただくよう指導しています。

 大腸内視鏡検査 肛門からカメラを挿入して直接観察する方法で、がんやポリープに対する診断能が高いことが特徴です。主に便潜血陽性者に対する精密検査のために用います。大腸内視鏡検査は病変を確認し、組織検査が行える利点があります。

 ただ、問題の一つに、精密検査の受診率が非常に低いことがあります。岡山市の例では、便潜血検査で陽性と診断され、大腸内視鏡検査を受ける方は半数もいません。その原因としては、大量の下剤を飲むのが苦しい、痛そう、恥ずかしい―などさまざまです。

 そこで、総合健診センターでは大腸CT検査を導入しました(保険診療対象外)。大腸を炭酸ガスによって拡張させ、CTで撮影することで、あたかも内視鏡検査を受けたかのような3次元画像を得ることができます。内視鏡検査より苦痛が比較的少なく、飲用する下剤量も少なく、約15分で終わります。

 大腸がんは内視鏡治療で切除するのがベストです。その適応は大きさではなく深さです。3~4センチあっても、根深いものでなければ内視鏡で手術できます。内視鏡的粘膜下層剥離術と言います。内視鏡治療は体への負担が比較的軽く、入院期間が短くてすむなどの利点があります。

乳がん検診(高濃度乳房)について
外科副部長 中島一毅


 乳がんは近年も増加傾向にあります。日本で15~16人に1人、欧米では6~7人に1人とも言われていますが、次第に欧米に追いつきつつあります。その最大の特徴は、発症のピークが40代で、35歳から60歳くらいまでの死亡率が高いことです。30代、40代は家庭にとっても社会にとっても一番大事な時期ですよね。

 検診の目的は無症状の状態で疾患を発見することです。自覚症状があれば病院に行きますが、それでは助からない場合もあります。転移する前の早期がんであれば手術で治りますし、QOL(生活の質)の良い状態で治療ができます。だから検診での早期発見が大切です。

 ところが、3月に「日本人に多い『高濃度乳房』 がん検診・マンモに限界」との報道がなされました。これはアジア人の30歳代後半から40歳代の女性はマンモグラフィー(乳房エックス線撮影)で、乳腺の密度が濃い高濃度乳房と判定される方が多く、高濃度乳房ではマンモグラフィーの乳がん検出能力が2割ほど低下するため、対策型検診(市町村が実施する検診)で高濃度と判定された人は、超音波検査などによる他の検診を受けるべきであり、高濃度かどうかを通知してほしいとの内容でした。

 本報道はもっともなご意見なのですが、問題は超音波検査の精度が検査者の技術に大きく影響されることです。検査技術に差があるまま検診に導入すると誤診が増える危険があり、この問題は以前からも指摘されていました。そこで、厚生労働省では大規模な臨床試験プロジェクト「J―START」を立ち上げました。これはマンモグラフィー単独乳がん検診と、きちんと精度管理された技師、装置を用いた乳房超音波検診を併用する比較試験ですが、併用群の方が早期がんの発見率が高い結果となり、超音波併用検診の有効性とともに精度管理の重要性が証明されました。

 一方、乳がん検診関連3学会ではワーキンググループを組織し、現時点での国内の検診現状・インフラ状況などを詳細に評価し、「対策型乳がん検診における『高濃度乳房』問題の対応に関する提言」として報告しています。その内容は「高濃度乳房の一律通知は時期尚早」という結論でありました。高濃度乳房であることを知り、必要な検査を追加することは重要ですが、対応できる施設と人材が不足している状況では、受診者の精神的不安をあおる可能性が高く、現時点での一律通知は控えるべきとの判断だと思われます。

 しかし、乳がんを心配する市民には受け入れがたいと思われますので、現時点では超音波専門医、超音波専門士、日本乳がん検診精度管理中央機構超音波講習会A判定(近日HPに掲載予定)の医師、技師による検査を受けることをお勧めいたします。

最新の婦人科検診と治療
産婦人科部長 本郷淳司


 一般の婦人科集団検診とはいったい何を目的とした検診なのでしょうか。実は子宮頸(けい)がんを見つけるための検診です。それだと子宮体がんや卵巣がんなど他の病気が気になります。

 子宮の入り口にできるのが子宮頸がんで、ヒトパピローマウイルス(HPV)が原因です。HPVは性交渉によって、女性の8割が一度は感染します。

 初期の子宮頸がんは全くの無症状です。症状が進行して初めて出血や痛みなどの症状が出てきます。そうなると治療が困難な場合も少なくありません。ですから、全く症状のないうちに定期的に検診を受けることが一番大事になります。

 検診は、子宮の入り口を綿棒などでこすって細胞をとり、異常がないか調べる擦過細胞診です。ただ、細胞診の正診率は60~85%と決して高くはなく、継続して受診することが肝要です。近年、より高感度のHPV検査を併用した検診の有用性が明らかとなり、早期の普及が望まれます。

 一方、わが国の問題点は、受診率が40%弱と非常に低いことで、他の先進国は軒並み70%以上です。子宮頸がんの好発年齢は30代なので、がんになる前の20、30代の検診受診率をいかに上げるかが課題となっています。閉経後の検診も大切です。潜伏感染というのがあり、年をとって体力が落ちるとウイルスが再活性化することがあります。

 以前、国内の子宮がんの90%は子宮頸がんでしたが、食生活やライフスタイルの変化により子宮体がんが急増し、今では50%以上を占めています。体がんは比較的初期に自覚症状があり、検診は子宮内の細胞をとる内膜細胞診と経腟超音波です。ハイリスク者や不正出血があった方に対して、子宮体がん検診を行う必要が高くなっています。

 卵巣がんも増加傾向にありますが、急速に増悪するため定期検診の恩恵はないと考えられてきました。四つのタイプがありますが、比較的進行が緩徐である明細胞がんや粘液性がんでは、経腟超音波による早期発見・治療の可能性は十分に考えられます。

 卵管発生がその半数を占め、急速に進行し早期発見が不可能と考えられていた漿(しょう)液性がんも、卵巣がんに特異的な腫瘍マーカーであるCA125を継時的に測定し、ROCAと名付けられたコンピューターアルゴリズムで解析することで予知や早期発見の可能性が出てきました。また、新規の腫瘍マーカーであるHE4とCA125値から求めるROMAを用いた卵巣がんの高精度診断も導入されました。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年05月09日 更新)

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