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(下)欠かせない特性理解と配慮 旭川荘療育・医療センター精神科部長 本田輝行

図1

図2

本田輝行精神科部長

 幼児期に自閉スペクトラム症(ASD)と診断され、就学まで療育を行ったBさんはおとなしいタイプです。小学3年生の1学期、急に学校に行きたくないようなことを口にしました。心配したお母さんは臨時的に病院を受診すると、<一斉指示や複数指示が理解できず、何をしたらよいか分からないまま困っていた>ことが分かりました。担任の先生にも診療情報を提供したところ、すぐに共通認識が持て、視覚的見通し=図1=を持たせながら個別的な指示をすることの必要性について再確認されました。今、Bさんは楽しく学校生活を送っています。

 ASDは「多くの人と違った見方・考え方・感じ方・人との距離のとり方をする」脳機能タイプです。それ自体は病気ではないので治すものではなく、「タイプ」の程度は年齢とともに減ったり増えたりするとは限りません。

 しかし例えば、もし「〇年生になったから、視覚的なスケジュール提示に頼らず、自分で考えてがんばろう」「□年生なら、~くらいできるはず」など、年齢や「みんな」の基準にあてはめてしまうと、子どもたちは不安になり、それが気づかれないまま続いていくと、自信が持てず頑張れない、落ち着かない、そして不登校やうつ状態など、いわゆる二次障害につながることもあります。

 そのために理解と配慮が必要なのです。配慮は<特別扱い>ではありません。特性を理解し、その子どもに合った合理的配慮を行い、子どもたちが過ごしやすい環境を作り、成功体験を引き出していくことは周囲の大人の役目であり責任です。2016年4月施行の障害者差別解消法により、合理的配慮を可能な限り提供することが行政、学校、企業などに義務付けられました=

 配慮の必要性や内容については専門病院や支援機関・施設から情報発信することができます。

 Bさんは<一見>学校適応がよかったこともあり、学年が上がるにつれ、特性理解や配慮が少し忘れられていたかもしれません。しかし幼児期からさまざまな支援者と相談してきたBさんのお母さんは早目に動き、学校の先生も速やかに理解・対応、二次的問題が起こる前にその<芽を摘む>ことができました。

 早期発見・早期支援は大切ですが、広い意味での支援は早期―幼児期だけで終わりません。子どもたちは幼児期から学童期、思春期を経て成人期へと成長し、いろいろな環境に置かれます。見守るだけでよい時期も、ときには積極的に介入した方がよい時期もあるでしょう。少なくとも大人になるまでは、見守り、適宜介入する、というスタンスが大切です。

 そして支援は、病院だけでは完結しません。支援の中心を担う分野は年代により母子保健、福祉、教育、労働などいろいろです=図2。Bさんの場合も家庭と病院と学校との連携した支援が実現しました。

 私たち児童精神科医は、それぞれの分野と連携しながら、家族と、やがては本人と、一緒に、よい子育てや社会適応を考えていきたいと思っています。

 なお支援は幼児期から行われていなければ<手遅れ>というわけではありません。小学生そして大人になっても、分かった時点からの支援は可能です。近年はとくに大人の発達障害・ASDの支援体制も整ってきています。

 ASDは、「みんなと違う」タイプである一方で、もはや特殊でもまれではなく、ありふれています。診断に至らないASD傾向をもった人も含め、この子ども・人たちが過ごしやすいよう、地域・社会レベルで理解・配慮していくことは、個性または特性を認められ、生かされることとなり、それはその地域・社会の成熟につながっていくでしょう。

     ◇

 旭川荘療育・医療センター(086―275―8555)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年05月09日 更新)

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