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「通いの場」軸の地域包括ケア 倉敷市保健福祉局 吉田昌司参与に聞く

吉田昌司参与

倉敷市が作った「通いの場ガイドブック」。5000部作製して高齢者支援センターや社会福祉協議会などに配布。地域の中での「居場所」や「生きがい」づくりに役立っている

「通いの場」を運営している6団体が取り組みを発表した「第2回支え合いのまちづくりフォーラム」=3月4日、ライフパーク倉敷

 倉敷市は、健康寿命の延伸を図りながら、医療や介護が必要になっても住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、「通いの場」を軸とした「地域包括ケアシステム」の構築に取り組んでいる。そのキーワードは「住民主体」。75歳以上の急速な増加に伴う高齢社会の進展を視野に入れた事業の現状と将来展望について、市保健福祉局の吉田昌司参与に聞いた。

 ―倉敷市の高齢化の現状を教えてください。

 65歳以上の高齢者は12万7千人で高齢化率は26%を超えています。介護保険事業計画では、団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年には13万3千人に増え、高齢化率は27・8%になると推計しています。とりわけ75歳以上は5万9700人から8万3600人と伸び率が高く、これに伴い認知症の高齢者の増加等も予測され、医療・介護サービス需要の増加が見込まれます。

 一方、高齢者人口の伸びに伴い生産年齢人口の割合は下がるため、働き手や担い手不足が生じる可能性があります。このため、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築は急務です。

 ―高齢者に対する支援の充実、それを支える社会基盤の整備に有効な「地域ケア会議」を早い段階から実施していますね。

 15年度からの国の法定化に先立ち07年度から独自に実施しています。医師や歯科医師、薬剤師等の専門職や民生委員、愛育委員、栄養委員など多様な方々に参加いただき、地域づくりを進めるため地域の特徴や課題を整理し、見守り等の取り組みを進めるとともに、議論の結果を必要に応じて市の政策へと反映させています。3階層の会議を実施していて、困難な事例を検討する「ミニ地域ケア会議」▽小学校区で高齢者の支援体制構築を検討する「小地域ケア会議」▽倉敷、水島、児島、玉島の4行政区単位での広域的な支援体制構築を検討する「地域ケア会議」があります。

 こうした会議を通して必要な医療・介護サービスを確保しつつ医療・介護の専門職の連携を深め、質の高いサービスを提供していきます。同時に、健康寿命の延伸を図るため高齢者の社会参加を促し、元気な高齢者が支援の必要な高齢者を支えられる地域の実現を目指しています。

 ―15年の介護保険法改正で、従来型の介護予防から「地域づくり」へと方針転換がありました。

 今回の改正は地域の支え合いを推進・強化するのが狙いです。改正に伴い「介護予防事業」と「包括的支援事業」が大きく変わりました。従来の介護予防事業に変わる、新しい介護予防・日常生活支援総合事業(新しい総合事業)の中には、全ての高齢者を対象にした一般介護予防事業が設けられました。

 倉敷市は、新しい総合事業を岡山県内では最も早い16年3月から実施し、高齢者が活躍できる地域づくりを進めています。というのも、役割を持って地域の活動に参加していくこと自体が介護予防につながるからです。一般介護予防事業の枠組みを生かし、元気な高齢者や要支援を含む虚弱高齢者、要介護者も含めて身近に立ち寄れる「通いの場」を、住民の皆さんが主体となってつくっていこうという取り組みです。その形はふれあいサロンや世代間交流の会、認知症カフェ、食事会などさまざまです。

 退職によって団塊の世代の方が地域に戻ってくるなど、地域には元気な高齢者がいっぱいいらっしゃいます。さまざまな活動の場があることで、こうした人々が生活支援の担い手として社会参加ができることになります。地域の「人財」として活躍していただきたいと考えています。

 ―包括的支援事業についてはいかがでしょう。

 内容が拡充され、生活支援の体制を構築するため、地域づくりを応援する「生活支援コーディネーター」の配置と、地域づくりを進めるための「協議体」の設置が求められています。コーディネーターについては、16年度から市社会福祉協議会に1人を配置しました。その仕事は多岐にわたり、地域ケア会議などに参加して地域の現状やニーズの取りまとめ▽地域づくりに必要な事業の企画・提案▽人材育成や、育成した人材の活動支援▽地域資源の取りまとめと見える化などです。16年度は「通いの場ガイドブック」の作成や「支え合いのまちづくりフォーラム」の開催などに携わりました。

 ―具体的にはどのような内容でしょうか。

 「通いの場ガイドブック」は、社会参加が介護予防につながるとの認識のもと、地域のサロンなどの活性化を図る一方、既存のサロンを見える化する観点からコーディネーターが中心となって市内各地を取材し、一冊にまとめました。その結果、サロンなどの「通いの場」は市内に約430カ所あり、うち承諾を得た280カ所を掲載し、開催場所や開催日時、活動内容、参加費などをマップも使いながら紹介しています。

 「支え合いのまちづくりフォーラム」は、昨年8月27日に第1回、今年3月4日に第2回を、いずれもライフパーク倉敷で開きました。第2回は「通いの場ガイドブック」のお披露目を兼ね、体操を楽しむ会、給食サービスボランティア、3世代交流のサロンなど、地域でさまざまな活動に取り組んでいる6団体の当事者の方々が発表しました。今後、市内各地の取り組みの横展開が期待されます。

 ―将来展望についてはいかがでしょうか。

 包括的支援事業で求められている協議体は15年10月に「高齢者活躍推進地域づくりネットワーク会議」として立ち上げました。社会福祉協議会、地域包括支援センター、老人クラブ、シルバー人材センターなどに加え、健康長寿課、市民活動推進課、スポーツ振興課といった市の担当課も入ってメンバーは10人程度です。横の連携をとりながらコーディネーターとともに地域づくりを進めています。17年度からはコーディネーターを2人増やし、学校区ごとの小地域ケア会議に参加してもらい、これまで以上に住民の方々の思いに寄り添って地域づくりを進めていこうと考えています。

 現在、私は高齢者を切り口に仕事をしていますが、問題は高齢者だけではないと認識しています。国も地域共生社会といって、地域包括ケアをさらに進め、地域でみんなが役割を持って暮らしていこう、支え合いの関係を地域の中でつくっていこうと言っています。

 地域の中で高齢者や障害者、生活困窮者などをみんなで支え合っていこうという社会が目標です。さらに言えば、要介護の高齢者であっても常に支えられる側になるのではなく、料理など得意な分野で活躍できる場面はあるので、双方向の支え合いの関係構築が大切であり、そういう社会の実現を目指していきます。

 よしだ・しょうじ 東京大学文学部卒。2002年に厚生労働省に入省。雇用均等・児童家庭局、職業安定局などで勤務。老健局振興課長補佐時代に地域包括ケア推進のための介護保険制度改正に携わる。15年4月から現職。奈良県出身。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年05月09日 更新)

タグ: 介護高齢者

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