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(1)肺の機能と切除について 岡山済生会総合病院診療部長呼吸器病センター長 片岡正文

片岡正文診療部長呼吸器病センター長

呼吸訓練で術後肺機能維持

 今回から5回に分けて肺の手術について解説していきたいと思います。初回の本日は肺の機能と肺切除の種類について説明します。

 肺は空気中の酸素を血液の中に取り込み、その後、酸素が全身で消費されたのちに排出される二酸化炭素を呼気に放出する機能を有する臓器です。その肺に空気を取り込む通路を気道と呼びます。気道は喉頭にある声帯をこえて気管に入り、気管は胸の中央あたりで左右の気管支に分かれます。その後、肺につながり右は上、中、下、左は上、下の五つの葉に分かれていきます。さらに18の区域に分かれて、最終的に酸素と二酸化炭素の交換を行う小さな肺胞へとつながっています=図1

 さて、肺の機能を評価する最も一般的な検査は肺活量などを測る呼吸機能検査です。この検査の方法は測定器につながる筒を口にくわえ、その筒の中に息をできるだけ勢いよく吹き込んで行います。そして、吹き込んだ全体の体積(肺活量)と最初の1秒間に吹き込めた体積(1秒量)を測定します。これらの値の平均値は年齢、性別、身長によって異なります。例えば65歳、155センチの女性であれば肺活量の平均値は2600ミリリットルですし、73歳、169センチの男性では3260ミリリットルとなります。この肺機能の値はさまざまな肺の病気が原因で低下します。例えば、喘息(ぜんそく)や肺気腫では1秒量が低下しますし、間質性肺炎では肺活量が低下します。喫煙による肺障害ではこの両方が低下します。

 次に肺の切除についてお話しします。肺の切除は範囲の少ない方から、部分切除、区域切除、葉切除、片肺全摘に分けられます=図2。病気の種類や広がりによって切除範囲が変わってきますが、切除範囲が大きいほど手術後の肺活量が減少しますので、個々の患者さんの切除前の肺の機能によっても可能な切除範囲が制限されてきます。適切な切除範囲は病気側の要因と患者さんの肺機能側の要因の両面から検討し、決めていきます。

 しかしながら、切除後の肺機能は単純に肺の容積に比例して減少するのではありません。肋間(ろっかん)筋や横隔膜などの呼吸筋の機能、禁煙により改善される気管支繊毛上皮の機能などによっても大きく影響されます。

 当院では2014年から術前サポート外来を行っております。この外来では、肺葉切除予定患者さんに対して手術の約2週間前に外来の段階でリハビリテーション科を受診していただき、腹式呼吸などの機能的な呼吸法や痰(たん)の出し方の指導などを行い、それから手術までの期間は自宅で呼吸訓練を行ってもらうようにしています。また、喫煙の悪影響を十分説明し、禁煙を確実に行っていただくようにしています。

 当院での14、15年の肺がん切除患者さんの術前と術後6カ月の肺活量の平均値を比較すると、部分切除では2890ミリリットルから2920ミリリットル(1%増)、区域切除では2710ミリリットルから2600ミリリットル(4・0%減)、肺葉切除では3260ミリリットルから3100ミリリットル(4・9%減)と、実際に切除した肺の容積分ほどは術後の肺活量は減少していませんでした。これは術前、術後の患者さんの呼吸訓練や禁煙による成果の現れだと考えています。

 次回は胸腔鏡(きょうくうきょう)手術を中心に実際の手術についてお話しさせていただきます。

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)

 かたおか・まさふみ 操山高校、岡山大学医学部卒。1995年より米国テキサス大学MDアンダーソン癌センターへ2年余留学。2002年岡山済生会総合病院に勤務。13年より現職。日本外科学会指導医。呼吸器外科専門医。食道外科専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年05月22日 更新)

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