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(2)胸腔鏡手術と開胸手術 岡山済生会総合病院外科主任医長 奥谷大介

奥谷大介外科主任医長

病変部位置、傷考え選択を

 肺の手術では、病変に到達する方法として、胸腔鏡(きょうくうきょう)手術と開胸手術の2種類の方法があります。

 胸腔鏡手術とは、胸部の数カ所に小さな穴を開けて、その穴から肺を撮影するためのビデオカメラ(内視鏡)を挿入し、病変部を大きなモニター画面に映し出して、別の穴から手術器具を差し込んで、病変を切除し、取り出す方法です。英語の頭文字をとって、VATS(バッツ=Video Assisted Thoracic Surgery)とも呼ばれています。

 開胸手術とは、皮膚を切開し、その下にある肋骨(ろっこつ)や筋肉を切り、胸部を大きく開いて、病変部を実際に見て切除する方法です。

 1980年代までは、胸部の手術のほとんどが開胸手術でした。90年代から、手術に用いるビデオシステムの技術進歩に伴い、胸腔鏡手術が注目されるようになりました。日本胸部外科学会の学術調査によると、肺がん手術全体に占める胸腔鏡手術の割合は、97年には6・8%でしたが、2012年には70・8%まで増加しました。その後も、胸腔鏡手術を受ける患者さんの数は全国的に年々増加してきています。当院の呼吸器外科でも、胸腔鏡手術が第1選択となっています。

 胸腔鏡手術の最大のメリットは、手術による傷が小さいことです。皮膚に開ける穴の大きさは、切除した病変部を体外に摘出するため約4センチの穴となりますが、それ以外は1~2センチ程度です。小さな穴からの手術器具の操作は熟練を要しますが、胸腔鏡手術が広がり始めてから、既に20年以上の歳月が流れており、胸腔鏡手術は呼吸器外科領域では主流となっています。傷が小さく、筋肉や骨を切断しないため、術後の痛みは軽くてすみますし、腕の上下や胸部をひねる運動への影響も少なくなります。

 胸部の筋肉や骨は、呼吸にも関連していますので、傷が小さいと手術後の呼吸機能の回復も早くなります。これらの結果として、手術後に日常生活や仕事へ復帰するのが早くなります。

 また、病変部をモニターで大きく映し出すことで、手術スタッフ全員が病変を確認することができ、手術の精度も向上します。

 一方で、病変部の位置や病気の進行具合などによっては、胸部を実際に開けて、肉眼でみる開胸手術が適している場合もあります。以前は、胸部の皮膚を約30センチ程度切開して肋骨や筋肉を切断していましたが、近年は、肋骨を切らず、皮膚切開の大きさも15センチ程度とする開胸手術法も導入されてきています。

 いずれの方法にしても、患者さんのご希望と既存の合併症、病変部の位置や状態、手術の安全性を総合的に考えて、術式を選択することが大切です。当院では、どちらの手術法も経験してきた医師二人が、事前に十分な検討を行い、最適な手術方法をご提案しています。

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)

 おくたに・だいすけ 徳島県鳴門市出身。徳島文理高校、岡山大学医学部卒。岡山大学病院、トロント大学呼吸器外科、岡山赤十字病院、岡山医療センターなどを経て2016年より現職。日本外科学会専門医・指導医、日本呼吸器外科学会専門医、リハビリテーション医学会臨床認定医。


※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年06月05日 更新)

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